2019年9月、令和元年房総半島台風(台風15号)がもたらした猛威は、私たちの想像を遥かに超えるものでした。千葉県内では大規模な停電が長期化し、生活の生命線とも言える「防災行政無線」が各地で沈黙するという、極めて深刻な事態に陥っています。2019年9月19日時点の取材によれば、多くの自治体で非常用電源が尽き、住民への大切な情報が届かない状況が続いていたことが明らかになりました。
今回、通信の要である防災無線が機能不全に陥った主な原因は、皮肉にも「備え」の燃料切れでした。例えば南房総市では、2019年9月11日に山間部の中継局4箇所で自家発電機の燃料が底を突きました。山道が倒木で遮られたため、復旧作業に向かうことすら困難な状況が続き、ようやく機能を取り戻したのは2019年9月14日の未明のことです。SNS上では「放送が全く聞こえない」「孤立しているようで不安」といった切実な声が溢れ返りました。
ここで言う「防災行政無線」とは、災害時に市町村が住民へ避難情報などを伝えるための専用通信網を指します。通常は停電しても動くよう予備バッテリーや自家発電機を備えていますが、今回はその想定を上回る事態となりました。鴨川市では、通常3日は持つはずの電源が、放送頻度の増加によってわずか1日で切れてしまった場所もありました。設計上の「想定」が、未曾有の災害前ではいかに脆いものであるかを痛感させられます。
さらに事態を悪化させたのは、電話やインターネットといった現代の通信環境そのものが遮断された点でしょう。NTTドコモが2019年9月19日に県内全域の復旧を発表するまで、一部の地域ではスマホすら繋がらない沈黙の時間が続いていました。KDDIは2019年9月17日に、ソフトバンクも2019年9月18日に復旧を宣言しましたが、その間の住民は情報の真空地帯に置かれたと言っても過言ではありません。
情報伝達の「空白」が招いた混乱の正体
2019年9月12日頃、鴨川市では中継局の燃料切れに加え、屋外スピーカーのバッテリーも尽きるという二重の悲劇に見舞われました。市は広報車を走らせたり、各家庭の防災ラジオへ電波を飛ばしたりと奔走しましたが、それすら届かない地域があったといいます。ネット上の反応を見ても「行政から何も聞こえない」「いつ電気が戻るか分からないのが一番怖い」といった、孤立感と不安が混じり合った投稿が目立ちました。
東京電力パワーグリッドの報告によれば、2019年9月19日の午後18時現在でも、千葉県内では約2万7600戸もの停電が続いています。山武市や南房総市、市原市といった地域では、今なお数千世帯が明かりのない不自由な生活を強いられているのです。行政がホームページを更新しようにも、自らの通信拠点がダウンしているため、被害状況の把握すら困難になるという組織的な麻痺状態が露呈しました。
私自身、この記事を執筆しながら強く感じるのは、これまでの「3日分の備え」という基準を根本から見直す必要性です。燃料補給の道が寸断されることも想定内とし、さらなる長期戦に耐えうるインフラ整備が急務ではないでしょうか。鴨川市の担当者が「長引く停電への対応が今後の課題」と述べているように、私たちが当たり前に享受している通信は、実は非常に繊細なバランスの上に成り立っているのです。
今回の台風15号の被害は、私たちが未来の災害にどう向き合うべきかを厳しく問いかけています。鋸南町や君津市など、各地で起きたバッテリー切れの教訓を風化させてはなりません。アナログな広報手段と最新のデジタル通信をどう組み合わせ、どんな状況下でも「命を守る声」を届けるのか。2019年9月のこの教訓を、私たちは今こそ真剣に、そして具体的に議論し、次なる備えに繋げていくべきでしょう。
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