世界経済を揺るがす大きな一歩が踏み出されました。2019年9月25日、アメリカのニューヨークにて安倍晋三首相とトランプ大統領が会談を行い、日米貿易協定の最終合意を盛り込んだ共同声明に署名したのです。環太平洋経済連携協定(TPP)から米国が離脱して以来、両国の新たな距離感が注目されてきましたが、ようやく一つの形が見えてきました。この合意により、私たちの食卓やビジネスシーンにはどのような変化が訪れるのでしょうか。
今回の協定における最大の注目点は、日本が輸入する牛肉や豚肉といった農産品の関税が、TPPと同等の水準まで引き下げられることです。一方で、日本側も工作機械や燃料電池などの工業品について、米国側による関税の撤廃や削減を勝ち取りました。SNS上では「安いお肉が食べられるようになるのは嬉しい」といった消費者目線の歓迎の声が上がる一方で、「日本の農業への打撃が心配だ」という慎重な意見も飛び交っており、期待と不安が入り混じっています。
ここで専門用語を少し紐解いておきましょう。今回の合意で議論された「関税」とは、輸入品にかける税金のことです。これを安くすることで、海外の製品が国内で安く流通するようになります。また、日本が懸念していた「為替条項」の導入も今回は回避されました。これは、国が通貨の価値を操作することを制限するルールのことで、もし導入されていれば日本の金融政策が米国の顔色を伺うことになりかねなかったため、外交上の大きな成果と言えるでしょう。
残された課題と自動車関税の不透明な先行き
しかし、手放しで喜んでばかりもいられません。今回の協定はあくまで「部分的な合意」に留まっており、投資やサービス分野まで網羅した包括的なTPPに比べると、その影響力は限定的です。特に日本にとって痛手なのは、自動車やその部品に関する関税撤廃が先送りされた点でしょう。2020年11月に大統領選挙を控えるトランプ氏が、自国の農家へのアピールを優先させた結果、日本側が譲歩を強いられた形となったのは否めない事実です。
私は、この協定が「完成品」ではなく、あくまで「進化の過程」であるべきだと考えます。世界貿易機関(WTO)のルールでは、貿易協定において品目の約90%以上の関税を撤廃することが求められていますが、現状ではその基準に抵触する恐れすらあります。日本政府は、今回守り抜いた「コメの無関税枠の維持」という成果を足がかりにしつつ、米国の保護主義的な動きに対して粘り強く交渉を続け、真に自由で公正な貿易圏を築く責任があるはずです。
両国は2020年1月1日の協定発効を目指しており、その後すぐにさらなる交渉が始まる予定となっています。すでに発動されている鉄鋼やアルミニウムへの高関税撤回も含め、日米が真のパートナーとして歩み寄れるかが今後の鍵を握るでしょう。この協定を単なる妥協の産物で終わらせず、将来のより広範な自由化へとつなげる「種」として育てていく視点が、今の日本には不可欠なのではないでしょうか。編集部としても、この動向を注視し続けます。
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