2019年09月25日、安倍晋三首相とトランプ米大統領は、日米貿易交渉において歴史的な合意に至りました。このニュースはSNSでも大きな話題となり、特に「アメリカ産の牛肉やワインが安くなるかもしれない」という期待の声が上がっています。家計を預かる消費者にとっては、高級なステーキや芳醇なワインが手近な存在になることは、まさに「美味しい」ニュースといえるでしょう。
一方で、今回の合意は「ミニ合意」と呼ばれる限定的な内容に留まっています。これは本来、広範な品目を扱う貿易交渉において、早期に成果が出やすい分野だけを切り出す「アーリーハーベスト(早期収穫)」という手法です。トランプ政権にとっては、難航する他の通商交渉や、中国との貿易摩擦で疲弊した米国内の農家に向けた、絶好のアピール材料になったことは間違いありません。
日本側は、当初こそ二国間交渉に慎重な姿勢を見せていましたが、最終的には米国の切実な事情を汲み取る形で歩み寄りました。これは安倍首相がトランプ大統領との個人的な信頼関係を背景に、相手の懐に飛び込む「抱きつき戦術」を展開した結果とも評されています。SNSでは、この親密な外交を支持する意見がある一方で、米国に押し切られたのではないかと懸念する声も散見されます。
自由貿易のルールを揺るがす「トランプ流」の危うさ
しかし、編集者の視点から見れば、今回の合意は諸刃の剣です。最大の問題は、これが多国間の自由貿易ルールを傷つけるリスクを孕んでいる点にあります。世界貿易機関(WTO)が掲げる、特定の国だけを優遇しないという原則に対し、このような限定的な二国間合意が乱立することは、長年築き上げた世界の秩序を「首の皮一枚」の状態に追い込みかねないからです。
トランプ大統領は「対日貿易赤字の削減ができる」と鼻息を荒くしていますが、これは今後、さらなる要求が突きつけられる前触れかもしれません。具体的には、米韓協定などで見られた輸出数量の制限や、為替の切り下げを牽制する条項など、自由な競争を阻害するルールが第2ラウンドの交渉で持ち出される可能性が極めて高いと考えられます。
安倍首相は自らを「自由貿易の旗手」と自認していますが、今回の日米共同声明に「自由貿易」という言葉が盛り込まれなかった事実は重く受け止めるべきでしょう。TPP11という多国間の枠組みを主導しつつ、米国とも個別に手を握るという二面作戦は、非常に高度なバランス感覚を求められます。目先の利益に惑わされず、いかに世界の自由貿易体制を守り抜くかが、これからの日本の宿題です。
コメント