2019年6月17日現在、夏の参議院選挙に向けて政局が熱を帯びています。一時は噂されていた衆参同日選挙の可能性は薄れ、国会は会期通り6月26日に閉幕し、参院選単独の戦いとなる公算が大きいと見られています。野党は安倍晋三内閣への不信任決議案提出を準備するなど波乱の芽は残っていますが、与党・自民党は「参院選単独でも勝てる」と自信を深めているようです。
その自信の背景には、世論調査における内閣支持率が50%を超え、政党支持率も40%を上回るという安倍自民党の盤石な状況があります。前回、大勝した2013年参院選の改選議席65には及ばないとしても、前々回2016年選挙の56議席程度は確保し、敗北することはないとの見方が一般的でしょう。しかし、過去の経験から見ると、世論調査の数字と実際の選挙結果には微妙なズレが生じることがあり、私はこの楽観論には注意が必要だと考えます。
🇺🇸選挙結果を左右する「相対的投票力」とは?
選挙結果の予測をより正確にするヒントは、遠くアメリカにありました。外務省の鈴木量博北米局長は、2016年の米大統領選挙で世論調査の劣勢を覆しトランプ氏が勝利した背景を分析した際、「相対的投票力」という新たな指標を考案しました。これは、特定の層の有権者人口の割合と、その層の実際の投票率を掛け合わせ、どれだけの票が投じられたかを数値化する手法です。この数値を使うと、ある層を基準として、他の層がどれだけ投票結果に影響を与えたかが見えてきます。これは、政治的な影響力を測る上で非常に有効な専門用語です。
アメリカの下院選挙を例に見ると、2018年では人種別で白人の相対的投票力が他の人種に比べ桁違いに強いことが分かりました。また、年齢別では18~29歳を基準(1)とすると、45~64歳が2.72、65歳以上が1.96と、中高齢層のパワーが非常に大きいことが数字から明らかになっています。トランプ陣営は、この白人・中高齢層の強い投票力をしっかり見極め、そこに訴えかける戦略をとったからこそ、世論調査とは異なる結果を出すことができたと分析されています。
🇯🇵日本における「シルバー民主主義」の実態
この「相対的投票力」の考え方を日本に当てはめてみましょう。日本では人種別のデータはありませんので、年齢別のみで応用を試みます。総務省の推計人口(2017年時点)と「明るい選挙推進協会」の2016年参院選年代別投票率データから、「投票力指数」を算出し、20代を基準(1)として相対的投票力を計算しました。
結果は驚くべきもので、20代を1とすると、30代は1.5ですが、60代は2.8、70歳以上は3.5と、高齢になるほど投票力が圧倒的に強くなることが判明したのです。これは、シニア層が有権者数が最も多い上に、投票率も非常に高い(20代の35%に対し、60代は70%と倍)ことから自然な結果と言えます。これが、高齢層の政治的な影響力が大きくなるというシルバー民主主義(高齢者層の意見が強く反映されすぎる民主政治のこと)の実態なのです。
高齢層の「実効的投票力」が自民党の脅威となる可能性
さらに一歩進めて、実際の投票行動に直結する**「実効的投票力」を試算しました。これは、年代別の投票力指数に、日本経済新聞社が2019年5月に実施した世論調査の「投票したい政党」データ(与党:自公と野党:それ以外)の回答率を掛け合わせたものです。これは、特定の政党にどれだけの票が投じられるかの可能性を示す指標と言えるでしょう。
20代から50代までは、与党が野党の2倍以上の投票力で圧倒していますが、60代では与党5.2に対し野党4.4とその差は肉薄します。さらに、70歳以上でも与党6.1、野党4.5と、シニア層の野党への実効的投票力は決して侮れない水準にあることが分かります。特に60代には「まだ決めていない」という未定回答者が15%おり、この層の内閣不支持率は支持を大きく上回っています。もしこの不支持層が野党に投票すれば、与野党の投票力はほぼ拮抗する事態になるでしょう。
安倍首相は、高齢層の「政権への不満」を指摘し、「未来のある若い人たちのボリュームをあげていきたい」と述べているそうです。これは、若年層の高い与党支持率を選挙結果に結びつけたいという狙いでしょう。しかし、その裏返しは、かつて「無党派層は寝ていてほしい」と述べた首相の言葉になぞらえれば、今は「老人は寝ていてほしい」ということになってしまうのかもしれません。
しかし、団塊の世代を中心としたアクティブ・シニア**、すなわち活発な高齢者層は何と多いことでしょうか。彼らは政治への関心も高く、投票意欲も極めて旺盛です。若者の支持だけを頼みとし、高齢層の動向を軽視しているとすれば、自民党は今回の参院選で思わぬ痛手を負う可能性をはらんでいます。世論調査の数字だけを見て楽観することはできません。この高齢層の投票力が、選挙の行方を大きく左右するカギとなるでしょう。
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