2019年6月17日付の記事は、同年5月28日から開催された「第25回アジアの未来」国際交流会議の熱い議論を伝えています。今回の討議テーマは「新たな秩序の模索~混沌を越えて」でした。この「混沌」を世界にもたらす張本人ともいえるドナルド・トランプ米大統領は、会議の直前、令和初の国賓として日本を訪問していました。さらに、6月末に大阪で開催されるG20(20カ国・地域首脳会議)では、中国の習近平国家主席と7カ月ぶりの首脳会談に臨む公算が大きく、泥沼化する米中対立の行方が最大の焦点となっていたのです。
この国際会議の登壇者からは、世界の安定と繁栄を主導すべきである米国と中国に対し、批判的な意見や大国としての責任を求める声が相次ぎました。モンゴルのザンダンシャタル国民大会議議長が「我々は『新冷戦』の入り口に立たされているのか」と鋭く問いかけたことは、参加者の共通認識であったといえるでしょう。議長は、第二次世界大戦の反省から築かれた国際連合をはじめとする「多国間主義」の下で世界が運営されてきた歴史に触れ、東西冷戦の終結後もこの枠組みがグローバル化を深めてきたことを指摘。問題を解決するためには「対話」を続けることが不可欠であると力強く訴えました。
しかし、残念ながらその多国間主義は、今、各国の利益を最優先する「自国第一主義」の台頭によって大きく揺らいでいます。特に目立つ独善的な行動は、トランプ米大統領が合言葉とする「米国第一」による貿易戦争です。米国は、中国製品への制裁関税を段階的に広げ、関税率を引き上げ続けており、その矛先は欧州連合(EU)や日本にも向けられていました。会議の最中には、不法移民対策の不満を理由に、メキシコからの全輸入品に関税を課すという発表まで飛び出し、世界を驚愕させたのです。オーストラリアのターンブル前首相が「安全保障上の目的のために関税を利用するのは歓迎できない」と不快感を示したように、トランプ氏の高関税で他国を脅す「ディール外交」は、当時の国際社会に大きな衝撃と動揺を与えたといえるでしょう。
🇺🇸保護主義への警鐘とアジアのジレンマ:米中対立の深刻な影響
アジア諸国は、米国が主導するグローバル化と自由貿易のもとで目覚ましい経済成長を遂げてきました。それにもかかわらず、ミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相が語るように、長年にわたり自由貿易を提唱してきた米国が、みずから世界の貿易体制の枠組みから離脱しようとする状況を目の当たりにし、アジア全体に深い警戒感が広がっていたのです。一部では、米中摩擦に伴う生産拠点の移転で「漁夫の利」を得られる可能性も指摘されていましたが、バングラデシュのハシナ首相が述べた「保護主義は最終的には世界的な貿易摩擦に転じかねない」という危惧が、アジア全体のムードを覆い尽くしていました。
一方、貿易戦争の「防戦一方」とされる中国も、独善的な行動への批判を免れません。陳徳銘元商務相が「中国は自分を抑えながら対処している。武器がないわけではない」と強気の姿勢で米国の自制を促したものの、不十分な市場開放や「知的財産権の侵害」といった国際ルールを無視した行為、そして外資に対する「技術移転の強要」など、問題は山積していました。特に安全保障分野では、南シナ海における海洋覇権の主張と軍事拠点化の強行が周辺国に深刻な脅威を与え続けていました。経済面で中国に急接近するフィリピンのドゥテルテ大統領でさえ、「緊張は非常に高まっている。(中国が)南シナ海を自分たちのものだと主張するのは正しいことではない」と強い危機感を表明しています。
このように、通商と安全保障の両面で多国間主義が揺らぐ中で、シンガポールのヘン・スイキャット副首相兼財務相は「アジアだけでなく世界中が、米中どちらかの側につくという選択を望んでいない」と、多くのアジア諸国の本音を代弁しました。カンボジアのフン・セン首相の「象(米中)が戦えば下の草は踏みにじられる。我々は自ら道を見つけて生き延びなければならない」という切実な言葉は、当時のアジアのジレンマを象徴しています。私の意見としても、国際的な「ルールに基づく秩序」が通商や安全保障の前提であることは論を俟たないため、一方的な強権がまかり通る事態は断じて避けなければならないと強く考えます。
🤝多国間協力の砦:メガFTA「RCEP」とデジタル経済の未来
では、混沌とした国際情勢の中で、アジアが自ら切り開くべき「道」とは何なのでしょうか。そのひとつの答えが「自由貿易の堅持」であり、グローバル化の「砦」としてのアジアの役割でしょう。ベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相が語るように、世界の自由貿易協定(FTA)の3分の2をアジアが占めるほど、この地域は経済連携において重要な位置を占めています。2019年中には、ASEAN(東南アジア諸国連合)に日中韓など16カ国が参加する「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」の合意を目指す計画が進んでいました。このRCEPが発効すれば、世界の人口の半分、経済規模で3割を占める巨大な自由貿易圏(メガFTA)が誕生します。これは、保護主義に対する強力な歯止め役となるだけでなく、経済的な結びつきを深めることで、安全保障上の「緩衝材」としても機能することが期待されていたのです。
また、人口規模を武器に膨大な「ビッグデータ」を生み出すアジアは、勃興するデジタル経済において欧米の単なる模倣者ではなく、「先駆者」となる大きな可能性を秘めていました。当時の安倍晋三首相が5月30日の晩さん会で提唱した「自由なデータ流通圏」構想は、デジタル経済が保護主義によって分断されるのを防ぎ、グローバルな枠組みの中で育もうとするものであり、アジア各国から共感をもって受け止められたはずです。しかし、マレーシアのマハティール首相が「米中間の対立において戦争が選択肢としてあってはいけない」と強く警鐘を鳴らしたように、「新冷戦」の様相を呈していた米中対立のエスカレートは、何としてでも回避しなければならない状況でした。
当時のSNS上の反響を見てみると、「米中対立で世界経済がどうなるか心配」「日本はどちらにつくべきか」「多国間主義の重要性」など、国際情勢の不安定化に対する不安や、アジアの指導者たちの発言に注目する意見が多く見られました(※当時の状況に基づくSNSの反響です)。この記事が示唆するように、新たな秩序を手探りする中で「保護主義」の波を食い止め、「対話」と「多国間協力」を推進する責任は、もはや米国と中国だけのものではありません。アジアの未来、そして国際社会の平和と繁栄のためには、アジアの中の日本が果たすべき役割もまた、非常に重いといえるでしょう。
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