日本の化学業界を牽引する旭化成が、東南アジアビジネスの舵を大きく切り直しました。2019年08月01日、タイの首都バンコクにおいて、地域統括拠点となる「旭化成アジアパシフィック(AKAP)」が本格的に始動したのです。これまでは東京の本社が主導してきた体制をガラリと変え、現地のニーズを即座に汲み取れる体制を整えた点に、同社の並々ならぬ決意が感じられます。
今回の動きの背景には、東南アジアが単なる「安価な工場」から、魅力的な「巨大消費市場」へと変貌を遂げた事実があります。SNS上でも「ついにタイが開発の中枢になるのか」「日本の技術が現地でどう花開くか楽しみ」といった期待の声が寄せられていました。自動車や電子機器メーカーの現地生産が加速する中で、供給側である素材メーカーにも、よりスピーディーな対応が求められているのでしょう。
新拠点であるAKAPは、単なる営業窓口に留まりません。5カ国16社に及ぶグループ会社を束ね、経営戦略の立案から市場調査までを担う「司令塔」としての役割を果たします。ここで注目したい専門用語が、同社が主力とする「ABS樹脂」や「アクリロニトリル(AN)」です。これらは家電のボディや合成ゴムの原料となる高機能なプラスチック素材で、私たちの生活に欠かせない存在といえます。
さらに、おむつなどに使われる「不織布」の展開も強化されます。不織布とは、繊維を織らずに絡み合わせたシート状の布のことで、衛生意識が高まる東南アジアでは非常に需要が伸びている分野です。現地の法整備のスピードに合わせ、リアルタイムで経営判断を下す体制は、激動するグローバル経済を生き抜くための賢明な判断ではないでしょうか。
中国依存からの脱却と次世代市場への布石
現在、日本の化学メーカーは大きな転換期を迎えています。長引く米中貿易摩擦の影響で、これまで成長の柱だった中国市場に急ブレーキがかかっているからです。旭化成の小堀秀毅社長も、2019年05月の経営説明会にて、投資効率を厳格に見直す方針を打ち出しました。中国や米国での売上高が2000億円を超える一方で、東南アジアはまだ数百億円規模であり、その分「伸びしろ」は計り知れません。
私自身の見解としては、この「地域特化型」の戦略こそが、日本企業の強みを再定義する鍵になると考えています。現地の文化や嗜好に寄り添った素材開発を行うことで、欧米勢との差別化が可能になるはずです。ライバルである帝人も、2019年09月にタイで高機能樹脂の新工場を稼働させており、素材メーカーによる「タイを起点としたアジア攻略」は、今後さらに熱を帯びていくに違いありません。
もちろん、中国の景気減速が隣国である東南アジアに波及するリスクは否定できません。目先では苦しい戦いが続く可能性もありますが、旭化成は短期的な利益に固執せず、じっくりと市場を耕す構えを見せています。10名程度でスタートしたAKAPのメンバーも、今後増強される予定です。タイから発信される新しい「技術の結晶」が、私たちのアジア体験をどう変えてくれるのか、その行方に注目が集まります。
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