野中郁次郎が語る「SECIモデル」誕生秘話!世界を揺るがした知識創造理論と暗黙知の衝撃

世界中の研究者が日夜しのぎを削る学術界において、誰もが驚くような独創的なアイデアに辿り着くのは至難の業です。たとえ斬新な閃きを得たとしても、同じ志を持つライバルは地球のどこかに必ず存在するものと言えるでしょう。権威ある学術誌に自らの論文が刻まれるかどうかは、実力はもちろんのこと、時代との巡り合わせや運も大きな要素となります。その点において、日本を代表する経営学者である野中郁次郎氏は、実に見事な強運を引き寄せた一人なのです。

1991年、氏はまずビジネス界に多大な影響力を持つ「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌にて、企業の知識創造に関する論文を発表しました。しかし、実務家向けとして名高い同誌での掲載だけでは、厳格な学界における正当な評価を得るには至りません。真の意味で「知識創造理論」が学術的な市民権を得るためには、専門誌への掲載という壁を越える必要がありました。そんな折、当時創刊間もなかった「オーガニゼーション・サイエンス」誌との運命的な出会いが訪れます。

スポンサーリンク

世界を驚かせた「Dynamic」という閃き

同誌の編集長であったアリー・ルイン氏が来日した際、知己であった野中氏に「優れた書き手を探している」と相談を持ちかけたことが転機となりました。これに応じた野中氏は、自身の理論をより学術的に深めた論文を投稿します。当初は控えめな題名を想定していましたが、提出直前に「Dynamic(動態的)」という言葉が脳裏を掠めました。1994年、この一言を冠した論文が掲載されるやいなや、世界の経営学の流れを一変させる一石を投じることになったのです。

この成功を足掛かりに、野中氏は自身の集大成ともいえる著作の英文出版を決意しました。同僚の竹内弘高氏やエディターのボブ・ハワード氏らの協力を得て、徹底的に構成を練り直す日々が続きます。そして1995年、ついにオックスフォード大学出版局から『The Knowledge-Creating Company(知識創造企業)』が世に送り出されました。この一冊は、全米出版社協会の年間最優秀書籍に輝くという、日本人著者としては異例の快挙を成し遂げたのです。

「暗黙知」から紡ぎ出されたSECIモデルの正体

本書の核心を支えるのは、プラトンから西田幾多郎に至るまでの膨大な哲学の系譜です。中でも科学哲学者マイケル・ポランニーが提唱した「暗黙知」という概念が重要な鍵を握っています。暗黙知とは、言葉や数値で表せる「形式知」とは対照的に、個人の経験や情熱、身体感覚に深く根ざした「言語化しにくい知識」を指します。この暗黙知と形式知がダイナミックに混ざり合うプロセスを、野中氏は「SECI(セキ)モデル」として論理的に体系化しました。

SECIモデルは、経験を共有し共感する「共同化」、それを言葉にする「表出化」、理論や物語へと繋ぐ「連結化」、そして再び行動へ移す「内面化」の4段階で構成されています。1996年には日本語版も出版され、この理論は瞬く間にビジネスの現場へと浸透していきました。SNS上でも「日本発の理論が世界標準になった誇らしい事例」として、今なお経営層から若手社員まで幅広く引用され、時代を超えた普遍的な価値を証明し続けています。

特筆すべきは、理論が机上の空論に留まらなかった点です。エーザイの内藤晴夫社長がいち早くこのモデルを実践し、特に現場での「共感」を重視する共同化の有効性を実証しました。学術的な深みと実践的な鋭さを兼ね備えたこの理論は、単なる経営手法の枠を超え、人間がいかにして新しい価値を生み出すかという根源的な問いへの答えを示しています。現代の複雑な社会においても、この知の循環こそが、組織を蘇らせる特効薬になるのではないでしょうか。

今回のエピソードを通じて、皆さんも日々の仕事の中で「言葉にできない感覚」を大切にしてみてはいかがでしょうか。その小さな「暗黙知」を周囲と共有することが、大きなイノベーションの第一歩になるかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました