2019年5月、日本の経済界トップから、長らく日本の雇用慣行の中核をなしてきた**「終身雇用」に対して、大きな問題提起が相次ぎました。まず、経団連会長を務める日立製作所会長の中西宏明氏が、同年5月7日の記者会見で「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界にきています」と明言しました。その背景には、外部環境の急速な変化によって、働く人々が「これまでの仕事がなくなる」という厳しい現実に直面しているという認識があるようです。この発言に続き、日本自動車工業会会長でもあるトヨタ自動車の豊田章男社長も、終身雇用を守り抜くことの難しさに言及し、企業側へのインセンティブが必要であるとの見解を示されました。このお二方の言葉は、「令和」という新しい時代における日本の働き方が、どのように変わっていくのかを予言しているといえるでしょう。
かつては「企業の寿命は30年」という言葉がありましたが、現在ではその期間はさらに短くなっている状況です。アメリカの調査会社イノサイトなどのデータによりますと、S&Pの株価指数を構成するアメリカの大企業の平均寿命は、1960年代には60年を超えていましたが、現在ではわずか20年程度にまで「短命化」しています。そして、この傾向は今後さらに強まると予測されています。日本においても、長寿企業が多いというイメージがあるものの、帝国データバンクの調査では、現時点での企業の平均年齢は37.16歳にとどまっており、創業100年を超える企業は全体のわずか2%に過ぎません。
現代の企業は、グローバル化(国際的な規模での経済活動や交流が活発になること)やデジタル化**(AIやIoTなどのデジタル技術が社会のあらゆる分野に浸透すること)といった要因による競争圧力の高まりに、日々さらされています。M&A(企業の合併・買収)や再編も日常的なものとなり、大企業であっても生き残りが保証されているわけではありません。仮に会社が存続したとしても、事業内容が非連続的に、つまり根本から大きく変化し、「別物」になることもしばしばです。豊田社長がトヨタ自動車を従来の「メーカー」ではなく、「モビリティ」の会社だと再定義したのも、その一例です。看板は「トヨタ自動車」のままでも、製造が中心だった以前のトヨタと、サービス提供の比重が高い新しいトヨタでは、求められるスキルや事業の性質が大きく異なると考えられるでしょう。
このような企業(事業)の**「短命化」とは対照的に、私たち一人の人間が働く時間はどんどん長くなっています。政府は2020年の国会に、希望する高齢者が70歳まで働ける環境を整えるための法案を提出する予定です。もし22歳で大学を卒業して70歳まで働くことになれば、労働に従事する期間は48年にもなります。企業の寿命が30年未満であるとすれば、「個人の労働寿命が会社の寿命を追い越す」という時代がまさに到来しようとしているのです。この新しい時代において、不可欠となるのが「転職」と「転スキル」、つまり新しい職場を探すことと、自身のスキルを時代の変化に合わせて変えていくこと、または別の分野に応用できるように転換していくことです。
この変化に対して、特に若い世代はすでに心の準備ができているように見受けられます。採用支援会社アイプラグの調査では、就職活動中の現役大学4年生の実に71%が「将来的に転職もあり」と考えており、「転職はなし」のわずか6%を圧倒しました。また、マイナビの調べでは、2019年春に就職した大卒の新社会人のうち、約1%にあたる5,000人弱が、入社からわずか2カ月あまりで同社の転職サイトに早くも登録していることが明らかになりました。これは、新卒で入社したばかりにもかかわらず、すでに次の転職機会をうかがっている若者がこれだけ存在するという現実を示しています。
この動きを「辛抱が足りない」と批判的に捉えるか、「スーパー転職時代の申し子」として新しい価値観だと受け入れるかは、人によって意見が分かれるかもしれません。しかし、これは私たちが直視すべき現実であり、新しい働き方がすでに始まっている証拠といえます。むしろ、この急激な変化への対応に苦慮しそうなのは、これまで終身雇用を前提として組織や制度を構築してきた大企業、労働組合、そして政府などの「体制側」でしょう。中西氏や豊田氏の発言を契機として、日本全体でこの「大転職時代」への備えを急ぐことが、喫緊の課題であると考えられます。
💻SNSの反響は?若者の新たな価値観
今回のトップ層からの終身雇用に関する発言は、特にSNS上で大きな反響を呼びました。「企業の寿命が短くなっているのに、個人のスキルアップや転職をしない方がリスクだ」「会社に依存するより、自分の市場価値を高めたい」といった、自己成長とキャリアの自律性を重視する若者の意見が多く見受けられました。一方で、「終身雇用がなくなるなら、会社はもっと社員の教育に投資すべきではないか」「若者の転職は、会社への期待値の低さの表れでは」といった、企業側の責任を問う声も少なくありませんでした。こうした声は、単なる「辛抱」の問題ではなく、企業と個人の関係性や、働くことに対する価値観そのものが、大きな転換期を迎えていることを示していると言えるでしょう。
私自身の見解としても、企業の論理と個人の論理が逆転しつつあるこの流れは、もはや止められないと考えます。かつては会社が個人を守ってくれましたが、現代では「自分を守るのは自分」という意識が不可欠です。中西氏や豊田氏の言葉は、企業側からの「あなた方のキャリアはもはや会社任せにできない」という、ある種の「宣戦布告」**と捉えることもできるでしょう。このメッセージを真摯に受け止め、働く私たち一人ひとりが、自らのスキルを磨き、主体的にキャリアをデザインしていくことこそが、不安定な時代を生き抜くための鍵になるに違いありません。
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