2019年10月31日に控えた英国のEU離脱期限が迫る中、欧州の自動車業界にはかつてない緊張が走っています。欧州の自動車関連23団体は、具体的な取り決めがないまま離脱する「合意なき離脱」に対し、業界に壊滅的な打撃を与えるとして異例の反対声明を発表しました。この混乱は、単なる政治の問題を超え、私たちの生活に身近なクルマの未来を大きく揺るがす事態へと発展しています。SNS上でも「欧州車が値上がりするのではないか」「好きなブランドの生産が止まったら困る」といった不安の声が相次いでいます。
特に深刻な影響を受けているのが、生産台数の約8割を輸出に頼る「自動車大国」ドイツです。2019年1月から9月までのドイツ国内の乗用車生産台数は、前年同期比で9%も減少する357万4600台にまで落ち込みました。内需はわずかに増加しているものの、これまで経済を牽引してきた輸出というエンジンに急ブレーキがかかっている状態です。部品を国境を越えてやり取りするサプライチェーン、いわゆる「部品供給網」の再構築を迫られており、まさに100年に一度の転換点に立たされていると言えるでしょう。
世界的な販売不振と関税の壁がもたらすコストの衝撃
ドイツ車の輸出先は、英国や米国、中国といった主要マーケットが上位を占めますが、2019年に入りこれらの国々すべてで販売が振るわない「総崩れ」の様相を呈しています。中国市場では11%減、米国や英国でもマイナス成長が続いており、メーカー各社は生産調整を余儀なくされています。VWグループやBMWが減産を強いられる中、メルセデス・ベンツが健闘を見せていますが、業界全体の冷え込みをカバーするには至っていません。世界経済の減速が、名門ブランドの足元を確実に掬おうとしているのです。
もし「合意なき離脱」が現実のものとなれば、現在はゼロである英国とEU間の関税が10%に跳ね上がります。これは1台300万円の車なら30万円のコスト増を意味しますが、価格競争が激しい中で安易な値上げは許されません。また、税関手続きの煩雑化は、分単位で管理される精密な生産現場に物流の滞りをもたらします。個人的な見解を述べれば、この不透明な状況下で最も割を食うのは、現場で働く労働者や、期待して新車を待つユーザーではないかと危惧せずにはいられません。
生き残りをかけたリストラと自動運転への巨額投資
逆風にさらされるのは完成車メーカーだけではありません。部品メーカーの独コンチネンタルは、2019年9月に大規模なリストラ策を打ち出しました。2029年までに世界全体で2万人規模の人員削減や配置転換を行う方針で、エンジン関連から自動運転分野へのシフトを急いでいます。これは、従来の「走る・曲がる・止まる」という機械的な価値から、AIが運転を支援する「コネクテッド」や「自動運転」というデジタルな価値への主役交代を象徴する動きであり、企業の生存本能が突き動かした決断です。
こうした苦境を打破するため、かつてのライバルたちが手を取り合う異例の事態も起きています。VWと米フォード、あるいはBMWとダイムラーといった巨大資本が、自動運転技術の共同開発で提携を加速させています。特に、特定の条件下でシステムが全ての運転操作を行う「レベル4」の実用化は、莫大な開発費を分担しなければ太刀打ちできない領域です。厳しい冬の時代を耐え抜くための合従連衡は、単なるコスト削減ではなく、次世代のモビリティ社会で主導権を握るための、極めて戦略的な「攻め」の姿勢だと私は評価しています。
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