2019年10月16日の米国株式市場は、まるで嵐の前の静けさと、希望が入り混じったような独特な熱気に包まれました。ダウ工業株30種平均の終値は、前日比22ドル安の2万7001ドルとわずかな下落にとどまっています。一時は米中貿易摩擦への警戒感から80ドルも値を下げる場面がありましたが、終わってみれば驚異的な粘り強さを見せました。この背景には、悪いニュースさえも株価上昇の材料に変えてしまう、市場の不思議な「楽観シナリオ」が潜んでいるようです。
投資家の心理を冷え込ませたのは、朝方に発表された2019年9月の米小売売上高でした。市場の予想では0.2%の増加が見込まれていましたが、結果は0.3%の減少という厳しい内容です。これは2019年2月以来、実に7か月ぶりのマイナス転落となります。特にGDP(国内総生産)の計算において重要な指針となる「コア指数」が横ばいだったことは、アメリカ経済のエンジンである個人消費に陰りが見え始めたサインとして、専門家の間でも大きな注目を集めました。
消費鈍化のサインを打ち消す「個別株」の躍進
しかし、マーケットの反応は意外なものでした。指標が悪化したにもかかわらず、ネット通販大手のアマゾン・ドット・コムや、衣料品大手のギャップといった小売関連株が買われたのです。SNS上では「単月の数字に一喜一憂しすぎではないか」という慎重な声も上がりましたが、多くの投資家は「1か月程度のブレで消費トレンドは判断できない」と強気の姿勢を崩しません。この、ある種の「開き直り」とも取れるポジティブな解釈が、株価の下支えとなったのでしょう。
一方で、米中貿易協議の先行きには再び暗雲が立ち込めています。2019年10月11日に発表された「第1段階の合意」では、中国が巨額の農産物を購入するとされていましたが、ここにきて中国当局内から異議の声が上がっているとの報道が飛び出しました。普通であればパニック売りが起きてもおかしくない状況ですが、農業機械大手のディア・アンド・カンパニーが1年8か月ぶりの高値を更新するなど、市場はどこ吹く風といった様子で驚きの反応を見せています。
「景気が悪いほど株が上がる」逆説的な期待感
なぜ、これほどまでに市場は強気なのでしょうか。その答えは、中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)による「追加利下げ」への期待にあります。経済指標が悪化すればするほど、2019年10月29日から30日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)で金利が下げられる確率が高まるという、いわゆる「悪いニュースは良いニュース」というロジックが働いているのです。実際に、金利先物市場での利下げ予測確率は、指標発表後に一気に90%台まで跳ね上がりました。
編集者としての私見ですが、現在の市場は「利下げという麻薬」に少し依存しすぎているようにも感じられます。FRBが公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)でも景気判断が引き下げられており、企業の投資意欲は冷え込んだままです。目先の株価維持には利下げが有効かもしれませんが、実体経済の体力が奪われれば、いずれ楽観論だけでは支えきれなくなるでしょう。最高値まであと一歩のダウ平均ですが、この「砂上の楼閣」のような上昇がいつまで続くのか、冷静な見極めが求められます。
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