2019年6月19日、世間を騒がせている**「老後資金2000万円問題」に関する国会審議の様子が報じられました。金融庁が示した「老後の生活には約2000万円の金融資産が必要」という試算を巡る議論は、核心であるべき「老後の生活設計をどう支えるか」という政策論争に深く踏み込むことなく、麻生太郎金融相が報告書を正式に「不受理」とした対応など、もっぱら手続き論に質疑が集中してしまったのです。読者の皆様の不安を払拭し、将来への備えを考えるためにも、年金制度の現状と、私たち一人ひとりの「自助努力」をどう後押しするかが、今、最も重要な焦点だと言えるでしょう。
この議論の根底には、政府が公的年金制度について掲げてきた「100年安心プラン」という表現への「誤解」が横たわっていると筆者は感じています。共産党の小池晃書記局長が「多くの国民は年金で100年安心して暮らせると受け取っている」と指摘したのに対し、麻生金融相は「制度の持続可能性がしっかり確保されていることを示すものだ」と答えるに留まっています。この「100年安心」というフレーズは、現行の公的年金制度の仕組みが導入された2004年から使われ始めました。
具体的には、現役世代の保険料率を最終的に年収の18.3%で固定しつつ、少子高齢化の進展に合わせて年金給付の水準を自動的に抑える「マクロ経済スライド」という仕組みを導入することで、年金財政の収支がおおむね100年にわたり均衡するように設計されたものです。しかし、これは「100歳まで年金給付だけで余裕をもって生活できる」ことを約束するものでは決してありません。政府が、制度の持続性をアピールするために使ったこの表現が、国民の間に「年金だけで老後も万全」という過度な安心感**を与えてしまった側面があると言わざるを得ません。
制度の持続性を示す「マクロ経済スライド」の課題とは?
安倍晋三首相は、参院厚生労働委員会で「公的年金は老後の生活設計の柱」という基本方針に変更はないと強調し、自身の政権下で「マクロ経済スライドが機能するようになった」と述べ、制度の持続性が高まっていると主張しました。このマクロ経済スライドとは、現役世代の賃金や物価の上昇率よりも年金給付の伸びを抑制することで、年金財政のバランスを保つための仕組み、いわば**「自動的な給付抑制装置」です。しかし、実はこのスライドが実際に発動したのは、これまでのところ2015年度と2019年度のわずか2回に過ぎないのです。
その理由の一つは、景気が悪化して物価が下がるデフレの状況では、このスライドを発動しないという決まりがあるからです。会計検査院の試算によると、毎年発動していれば、国の負担は累計で3.3兆円も削減できたとされています。つまり、発動しない状況が続くと、当初想定していたほど年金給付の抑制が進まず、現在の現役世代が将来受け取る年金額が結果的に少なくなるという課題を抱えています。
マクロ経済スライドの発動要件をさらに強化すれば、将来の年金不安を軽減できますが、過去には野党から「年金カットだ」と強く批判された経緯があり、政府は及び腰になっているのが現状です。もし、老後資金の不足分を年金給付の増額で賄おうとすれば、巨額の財源が必要となり、増税や年金保険料の引き上げといった、現役世代へのさらなる負担増が避けられません。しかし、現在の国会審議では、これらの重要な政策論争**に踏み込むことができていない点が、極めて残念だと言えるでしょう。
深まる国民の不安と、自助努力への支援の必要性
少子高齢化が加速する中で、老後の備えを充実させるには、年金制度の改革と同時に、私たち国民一人ひとりの**「自助努力」が欠かせない重要なカギとなります。にもかかわらず、この自助努力をどう促進し、支援していくかという議論も、依然として低調です。審議の中では、金融庁が報告書の検討過程で「1500万円~3000万円が必要」とする独自試算を示していたことも取り上げられましたが、結局は数字だけが独り歩きする状況が続き、年金制度の現状を踏まえた自助努力の必要性や、それを支援するための具体的な対策についての議論は、ほとんど見られませんでした。
こうした国会の状況とは対照的に、国民の不安はますます高まっています。2019年6月16日に都内で開催された「生活できる年金払え!」と訴えるデモには、普段デモで見かけないような若者の姿も多く見られました。さいたま市に住む21歳の女子大学生は「自分が高齢者になるころには、ほとんど年金をもらえないだろう」と、深刻な不安を口にしています。また、翌17日夜に都内で開かれた「老後に2000万円は本当に必要か緊急会議」というセミナーには、仕事帰りの20代から50代の会社員ら144人が会場を埋め尽くしました。
これらの事実は、年金制度を支える現役世代の将来への強い不安を示しており、年金制度の持続性と老後の生活設計に向けた対策が急務であることを浮き彫りにしています。金融庁の報告書をいったん受け取らなかった麻生金融相は、18日になって「文章をきちんとした上で、新たなものを作業部会でつくることも考えられる」と発言しました。老後資金の対策を一歩でも前進させるためには、丁寧な試算に基づき、国民が将来像を具体的に描けるような提示が不可欠です。それは、年金制度を所管する厚生労働省の重要な職務でもあると言えるでしょう。今こそ、手続き論から離れ、国民の不安に真摯に向き合った未来志向**の議論を深めてほしいと願うばかりです。
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