茶道の「炉」が教えるおもてなしの神髄!漢字学者が語る昭和の下宿生活と「夏炉冬扇」の意外な関係

茶道の格式高い世界には、私たちが普段意識しないような繊細な「季節の移ろい」が息づいています。漢字学者の阿辻哲次氏が2019年10月20日に明かしたエピソードによれば、茶席で湯を沸かす設備は時期によって使い分けられるそうです。11月から4月までは畳の一部を切り抜いた「炉」を用い、5月からの夏場は畳の上に置く「風炉(ふろ)」へと切り替わります。

驚くべきことに、この切り替えは単に道具を置くだけでは済みません。炉から風炉へ移る際には、切り込みのある専用の畳を通常の畳へと敷き直す必要があるのです。さらに、使用する炭の種類や炭を運ぶ「炭斗(すみとり)」という道具、さらには柄杓(ひしゃく)や釜の蓋を置く位置までもが厳格に区別されています。門外漢には計り知れないほど、茶道の世界は奥深いこだわりで満たされています。

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時代と共に変化する「もてなし」の道具

阿辻氏が自身の学生時代を振り返ると、そこには茶道の様式美とは対照的な、昭和の質素な暮らしがありました。かつての下宿生活では、自分専用の台所を持たない学生にとって「電熱ポット」が生活の要だったのです。友人が訪ねてくれば、すぐさまプラグを差し込んで湯を沸かし、インスタントコーヒーを振る舞うことが、当時における最高級の「おもてなし」だったと語られています。

ここで興味深いのが「夏炉冬扇(かろとうせん)」という四字熟語の存在です。これは中国の後漢時代に編纂された『論衡』に由来する言葉で、夏の火鉢や冬の扇のように「時期外れで役に立たないもの」を指します。氏の下宿先では、季節を問わず電熱ポットと団扇が常備されていたため、まさに一年中が「夏炉冬扇」の状態だったというユーモアあふれる例えが披露されました。

しかし、この知的なジョークも現代の若者には通用しなかったようです。電熱ポットを知らない世代からは「ホテルの備品にあるアレですか?」と不思議そうな顔をされ、2019年という令和の幕開けにおいて、昭和の文化が急速に遠ざかっている事実を痛感させられます。SNS上でも「便利さと引き換えに季節感を忘れていないか」といった、時代の変化を惜しむ声が上がっています。

私たちが手軽にボタン一つで湯を沸かせる現代、茶道が守り続ける「季節の手間」は、一見すると非効率に映るかもしれません。しかし、道具を替え、畳を替え、配置を整えるその所作こそが、相手を敬う心の表れではないでしょうか。効率重視の令和だからこそ、あえて「夏炉冬扇」とならないよう、暮らしの中に季節の彩りを取り戻したいものですね。

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