世界遺産「日光東照宮」を擁し、連日多くの国内外からの観光客で賑わう栃木県日光市には、古くからの伝統食が根付いています。その代表格が「湯波(ゆば)」です。この記事では、修験者たちの貴重な栄養源として親しまれてきた日光湯波の伝統的な製法から、若い才能によって生まれ変わった新感覚の湯波グルメまで、その尽きない魅力をご紹介しましょう。
日光東照宮へと続く日光街道沿いには、湯波料理を提供する名店が軒を連ねています。湯波は、豆乳を温めたときに表面にできる膜をすくい取って作る、大豆の恵みが凝縮された食品で、製造過程はまさに職人技です。老舗「海老屋長造」の六代目、森直生さん(59)にお話を伺ったところ、湯葉を作る部屋の温度は温かい日でさらに高く、豆乳の温度は約80度にもなるそうです。四角く区切られた鍋の中で温められた豆乳の膜の下に、慎重に金串を差し入れ、二つ折りに引き上げた膜を巻いて油で揚げたものが、日光湯波を象徴する**「揚巻湯波(あげまきゆば)」なのです。
揚巻湯波は、煮物やお鍋などで楽しまれており、海老屋長造ではこれをふっくらと炊き上げた「巻湯波のふくませ煮」を販売しています。実際にいただくと、箸でつまみ上げた湯波を噛み切るたびに、豆乳の旨味がじんわりと広がる食感が格別です。その食べ応えのある豊かなボリュームこそが、日光湯波の魅力の一つだと森さんは語ります。また、森さんの父が1975年(昭和50年)に考案した「さしみ湯波」**も看板商品の一つで、豆乳から引き上げたばかりのなめらかな食感を堪能できると評判です。
伝統の「湯波」と「ゆば」の違いとは?
ところで、京都などでは「ゆば」と表記されることが多いこの食材ですが、日光では伝統的に**「湯波」**という漢字が用いられます。海老屋長造の森さんによると、湯波という言葉の成り立ちには諸説あるものの、音に漢字を当てたのではないかと推測されているそうです。奈良時代に勝道上人が日光山を開いて以降、山岳修行が盛んだった時代に僧侶によってこの食材が伝えられたと考えられており、当時の僧侶にとって湯波は貴重なタンパク源であり、修行を支える重要な食べ物だったのでしょう。
現在、SNS上ではこの日光湯波の様々な商品が話題となっており、「さしみ湯波のトロッとした食感と濃厚な大豆の風味がたまらない」といった声や、「ふくませ煮が優しくて美味しい」など、老舗の伝統的な味わいに対する反響が多く見受けられます。長年受け継がれてきた伝統的な製法と、その素材が持つ無限の可能性に、多くの人々が魅了されている証でしょう。
日光湯波がイタリアンや和牛グルメに変身!
伝統的な味わいが愛される一方で、日光湯波は今、革新的な料理へと進化を遂げています。2018年(平成30年)5月にオープンした「Trattoria Gigli(トラットリア・ジッリ)」では、オーナーシェフの竹谷茂樹さん(32)が、湯波をイタリア料理に取り入れているのです。イタリアなどで修業を積んだ竹谷シェフは、「日光の食材をイタリア料理の土台に入れ込む」という強い思いでメニューを考案しています。
その代表的な一皿が**「日光生湯波のカプレーゼ」です。生湯波でイタリア産の柔らかいチーズを包み、さらにチーズの中にも湯波を混ぜ込むという斬新なアイデアが光ります。栃木県産のトマトと一緒に口に含むと、チーズと湯波が混然一体となり、湯波の新たな可能性を感じさせてくれるのです。これはまさに、伝統と異国の料理が見事に融合した、感動的なイノベーションだと言えるでしょう。私個人としては、このような既存の概念にとらわれない若い料理人の挑戦は、地域の食文化を未来へと繋ぐ素晴らしい試みだと強く感じています。
また、2015年(平成27年)開店の「全(ぜん)」でも、湯波を使った独創的な料理が人気を集めています。店主の斉藤直樹さん(34)が考案した「湯波巻」は、和牛と酢飯を湯波で巻き上げた一品で、湯波の持つ優しい風味と、和牛の力強い旨味が見事に調和しています。その美味しさは、京都の観光客から「京都にもお店を出してほしい」と言われるほどだそうです。さらに、2019年(平成31年)3月にオープンした「SLOPE COFFEE(スロープ・コーヒー)」では、土日祝日限定で生湯波の上にイクラをトッピングした「日光ゆば丼」を提供しており、こちらも新しい湯波の楽しみ方として注目を集めています。
このように、日光の湯波は、長きにわたり受け継がれてきた製法を守りながら、若い料理人の自由な発想によって次々と新しい魅力を開花させています。伝統的な煮物・刺し身といった食感豊かな料理から、イタリアンや和牛との大胆な組み合わせまで、その競演は訪れる人々を楽しませてくれるに違いありません。おこわを湯波で包んだ「ふだらく本舗のゆばむすび」など、手軽に楽しめる人気商品も増えており、旅の土産としても最適です。世界遺産の街、日光を訪れた際には、ぜひこの「日光湯波」**の奥深い世界を堪能してみてはいかがでしょうか。