エッセイストの岸本葉子さんが、50代半ばで自宅をリフォームされた際に掲げた大きな目標の一つは、「衣替えをしない家」を実現することでした。衣替えとは、季節の変わり目に夏物と冬物など、シーズン外の衣類を大がかりに入れ替える作業のことで、かつてはシーズンオフの服を衣装ケースにしまい、クローゼット内の高い棚に持ち上げて収納されていたそうです。布とはいえ、服を詰め込んだケースはかなりの重量になりますから、脚立に上がってバランスを保ちながら押し込む作業は、年々、体に大きな負担となっていたのでしょう。その重労働から解放されるため、収納方法の改善に乗り出されたのです。
リフォーム後のクローゼットは、間口を広くとった横長のデザインとなり、手前と奥に2本のポールが設置されました。これで、その季節に着る服を手前のポールへ、そうでない服を奥のポールへ、とハンガーのまま移動させるだけで済みます。一度にすべての入れ替えを完了させる必要もなく、手間が格段に軽減されましたね。さらに、クローゼット内にチェスト(引き出し式の収納家具)も配置し、ここに収まらない服は持たないという原則を設けられた結果、以前使っていた衣装ケースは空になったといいます。これで、年に2度の衣替えという重労働から、ついに解放されたはずでした……。
ところが、筆者はある作業をすっかり忘れていたことに気づきます。それは、**寝具の「衣替え」**とでもいうべき作業です。これがまた、衣類の衣替えと同じくらい、いやそれ以上に大変な労力が必要なものでした。冬に使用していた発熱素材の敷きパッドや掛け布団を一枚ずつ洗濯機で洗い、干す作業からスタートです。大きな寝具は洗濯機に一枚しか入らないため、洗濯機を二度回す必要がありますし、布団から外したカバーやシーツ、綿毛布なども洗って天日干ししなければなりません。一方で、夏に使用する涼感素材の敷きパッドや麻のケットも、ベランダで風を通す必要があります。
乾いた寝具を収納する場所は、衣類で使っていたのと同様、クローゼット内の天板近くの高い棚です。またもや脚立に乗って踏ん張りながら、重い寝具を持ち上げて収納する作業が必要となってしまいました。これでは、以前の衣装ケースを高い棚に上げる作業と、実質的には何も変わらないのではないか、という筆者の嘆きには思わず共感してしまいます。SNSなどでも、「冬物の大物寝具の洗濯と収納は本当に重労働」「ベッドから布団を下ろすのさえ一苦労になってきた」といった、衣替えの際の寝具に関する苦労の声は多く見られます。
話は変わりますが、かつてある大女優が60歳を過ぎて自宅を手放し、ホテル住まいをされていたというエピソードがあります。ホテル暮らしであれば、ベッドメイク(寝室の整理や布団のシーツ交換など)はサービスにお任せできますから、寝具の管理という労力から完全に解放されます。筆者は、この事実から「高齢者が介護施設などに入居する理由の一つに、寝具の管理が困難になるという点も含まれるのではないか」とまで考えを巡らせています。これは深い洞察ではないでしょうか。
しかし、そこまで考えるのは時期尚早だと、筆者ご自身も冷静に判断されています。そもそも問題は、寝具の種類が多すぎることにあるのではないか、と分析されています。子どもの頃は家が寒かったため、何枚も重ねて掛けていたものの、夏に向けては毛布や布団を一枚ずつ抜いていくだけというシンプルなものでした。しかし、近年は「発熱」や「涼感」といった様々な機能性素材の寝具が登場し、つい色々なものを揃えてしまった結果、種類が増えてしまったのです。私は、機能性素材を積極的に取り入れることは快適な生活を送る上で素晴らしい試みだと思いますが、その結果、管理が煩雑になるのであれば、本末転倒でしょう。
筆者は、住まいをどうするかを考える以前に、まずは寝具の種類を減らすことから着手すべきだという結論に至っています。とはいえ、当面は今の寝具の体制を維持しつつ、重い寝具の上げ下ろしに耐えられるよう、筋力の維持に励もうと決意されています。大変だと感じながらも、この夏も無事に衣替えの作業を終えることができたのですから、その決意は素晴らしいものです。この記事が公開された2019年6月20日の時点で、ご自身の身体と暮らしに真摯に向き合うエッセイストの姿勢に、私たち読者も深く考えさせられますね。
コメント