2019年6月19日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の2日目は、これまでの波乱含みの展開とは一変し、米株式市場は平穏に取引を終えました。かつては株式市場と「相性が悪い」とまで言われていた米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長ですが、この日は安定感をみせ、市場が期待する「ハト派的」な発言が好感され、ダウ工業株30種平均はなんと3日連続で値を上げる結果となったのです。まさに市場からの「利下げ催促」が功を奏した形であり、パウエル議長が市場とのコミュニケーション戦略を巧みに転換させた証拠であると評価できるでしょう。
これまでのパウエル議長の記者会見では、株価が下落に転じることが多く、特に2018年12月の会合後には、金融緩和で買い入れた資産の圧縮、いわゆる「バランスシートの縮小」について、「(圧縮は)自動運転だ」と発言したことが金融引き締めに積極的だと受け止められ、株価が急落するという苦い経験がありました。このため、一部の市場関係者からは「2019年の重大リスクの一つがFRBである」とさえ批判され、議長の発言のブレが相場の不安定さを生み出していると指摘されていたのです。
しかし、年が明けて2019年に入ると、パウエル議長はメッセージを大きく変えてきました。例えば、同年1月4日の講演では、従来の利上げに前向きな姿勢を改め、「忍耐強くなれる」と発言したところ、ダウ平均は今年最大の上げ幅を記録し、株価反転の大きなきっかけとなりました。今回のFOMC会見も、これまでの低評価を覆すに十分な内容であったと、市場では受け止められています。米投資顧問インバーネス・カウンセルのティム・グリスキー氏も、記者会見中のダウ平均が安定的に推移したことから、「市場がパウエル氏のメッセージや伝え方を好感したことの証左だ」と述べています。
市場の期待に応えた「予防的利下げ」への地ならし
今回の会見は、3月時点で金利据え置きを想定していたFOMCメンバーと、年内に2回から3回程度の利下げを期待していた市場との間に存在していた大きなギャップを埋める、まさに難易度の高いものでした。6月の利下げを正当化するほどの景気減速はまだ見られていない状況で、この溝を埋めることは至難の業とみられていましたが、結果として、パウエル議長は市場の懸念にしっかりと目配りする姿勢を見せ、「景気が変調をみせた場合、適切に行動する」という明確なメッセージを発信することで、「軟着陸」に成功したと言えるでしょう。米プルデンシャル・ファイナンシャルのクインシー・クロスビー氏も、「景気が変調をみせた場合、適切に行動するというメッセージを明確に発した」と高く評価しています。
特に注目すべきは、パウエル議長が「利下げなしと記入した多数の参加者も、5月以降、追加緩和が必要となる論拠が強まった点では同意した」と、市場の期待に寄り添うかのような発言をわざわざ付け加えたことです。これは、市場からすれば「甘すぎる」とも言える発言であり、あるFRBウォッチャーは、「市場の期待にここまで同調するのか」と驚きを隠せない様子でした。その結果、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が算出する金利先物から予測される市場の「利下げ確率」は、7月会合で0.25パーセント(%)以上の利下げが行われる確率が100%に達しています。この結果をみれば、市場が次のFOMCでの利下げを完全に織り込んでいることがわかります。
「甘すぎる発言」が招く7月の苦境
私見として申し上げれば、今回のパウエル議長の発言は、過去の批判を払拭し、短期的に市場の機嫌をとるという意味では見事な手腕であったと言えます。しかし、7月の会合ではこの「甘い言葉」が逆に足かせとなる可能性も否定できません。市場が利下げを100%織り込んだ状況で、仮に利下げを見送れば、その失望感から株価の急落を招きかねないでしょう。一方で、現在の株価は最高値圏で推移しており、景気減速に備えるための「予防的利下げ」を正当化できるのかという疑問も残ります。予防的利下げとは、景気が悪化する前にあらかじめ金利を引き下げておき、景気後退の芽を摘むための政策のことです。今の良好な経済指標のもとで利下げに踏み切れば、将来の金融政策の選択肢を狭めてしまうことにもなりかねません。
SNS上でも、今回のパウエル議長の発言については、「やっと市場の声を聞いてくれた」「これで安心して株を買える」といったポジティブな反応が多く見受けられる一方で、「市場に甘すぎる」「7月に利下げしないと大荒れになりそう」といった懸念の声も上がっています。このように、パウエル議長は「利下げへの地ならし」という難局を一時的に乗り切ったものの、わずか1ヶ月後の7月には、再び難しい政策判断を迫られることとなるでしょう。市場との対話を重視した「パウエル・マジック」が、今後も米国の景気拡大を支え続けられるのか、予断を許さない状況が続きます。
コメント