日本の製紙業界の雄、王子ホールディングス(HD)が、未来に向けた大きな岐路に立たされています。2019年5月27日、同社は2021年度までを対象とする新しい「中期経営計画」を発表しました。その核心は、従来の「紙」への依存から脱却し、「総合素材メーカー」へと生まれ変わるという強い意志の表明です。SNSでは「王子の『脱・紙』宣言、本気度が試される」「CNF(シーエヌエフ)に期待!」といった声が上がる一方、「先は長そうだ」と冷静な意見も見られました。
背景にあるのは、オフィスのペーパーレス化などによる印刷用紙市場の深刻な縮小です。国内の紙需要は2019年時点で13年連続の前年割れという厳しい現実があります。そこで王子HDは、当面はインターネット通販の拡大で需要が旺盛な段ボール事業で収益を確保しつつ、その間に未来の柱となる新素材を育てる戦略を描いています。足元の業績は段ボール分野への先行投資が実り、2019年3月期には業界初の営業利益1千億円を達成するなど好調ですが、安泰ではありません。
その未来の切り札として期待されているのが、植物由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」です。これは、木材パルプの繊維をナノ(10億分の1メートル)という非常に細かいレベルまで解きほぐした素材で、軽量でありながら強度は鉄の5倍にもなると言われています。建築材料や化粧品の成分など多岐にわたる応用が見込まれ、2030年には1兆円市場に成長するとの試算もある「夢の素材」です。加来正年社長(当時)も、このCNFの生産能力を早期に現状の10倍にあたる500トンへ引き上げる方針を示しました。
しかし、その道のりは平坦ではありません。加来社長自身が2019年5月27日の会見で「残念ながらまだサンプル。早く製品として出荷したい」と述べたように、CNFの売上高は当時まだごくわずか。10年後に200億円を目指すという段階で、収益貢献には長い時間が必要です。一方、海外の製紙大手、例えば米インターナショナル・ペーパー(IP)社は、いち早く「脱・紙依存」を進め、収益性の高い包装・資材事業(段ボールなど)の比率を7割にまで高めています。
王子HDも段ボール事業で東南アジア展開を加速させますが、そこにも中国の最大手企業が設備増強に動くなど、競争激化の兆しが見えています。市場の評価は厳しく、中計が発表された2019年5月27日の株価は、前営業日より安い586円で取引を終えました。証券アナリストからは「サプライズ感に乏しかった」との指摘も出ています。紙の需要が減り続ける中、業界再編の火種もくすぶり続けています。王子HDが「紙もつくる総合素材メーカー」へと転換できるか、まさに時間との勝負が始まっています。
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