2019年6月20日現在、東南アジアの動画配信市場が、米中の巨大インターネット企業によって激しい戦いの舞台となっています。特に、中国の騰訊控股(テンセント)が海外で初めて動画配信サービスを開始したことで、市場の覇者である米ネットフリックスとの対立が鮮明になってきました。東南アジア地域は、インターネットの利用時間が世界的に見ても非常に長く、動画コンテンツを含む市場規模はすでに1兆円を超えて急成長しており、「娯楽の王様」の座を巡る競争がヒートアップしている状況です。
中国のIT大手テンセントは、動画配信の海外展開において、特に高い潜在力を持つ東南アジアに注力する方針を打ち出しています。2019年6月14日には、タイで動画配信サービスへの参入を発表し、現地の視聴者に人気が高まっている中国映画やドラマを配信することで、2019年末までにタイ市場でトップ3入りを目指すという意欲的な目標を掲げました。このような中国勢の積極的な動きに対し、東南アジアで現在トップシェアを誇る米ネットフリックスは、視聴者の心に響く現地制作のオリジナルコンテンツを主要な武器として、迎え撃つ構えを見せています。例えば、2018年に世界中が注目したタイの洞窟からの少年サッカーチーム救出劇を題材にしたドラマを独占契約し、制作することを2019年4月に発表しました。ネットフリックスの国際オリジナル作品担当ディレクターは、この「驚くべき物語」を世界に届けることに強い意気込みを示しています。
ネットフリックスは2019年中に、タイ、フィリピン、マレーシアを含むアジア8カ国で合計100本ものオリジナル作品を追加する計画があり、現地に根ざした強力なコンテンツ制作で対抗しています。また、米国勢では、米アマゾン・ドット・コムも2017年にはシンガポール市場へ参入しており、その有料会員向け動画配信サービス「プライム・ビデオ」は、東南アジアの他の地域でも視聴可能になりつつあります。巨大な資本力と技術力を持つ米中のIT企業が、この急成長市場で主導権を握ろうと激しく攻防している様子は、まさにIT時代の覇権争いを象徴していると言えるでしょう。
📱東南アジアが「娯楽の王様」動画配信サービスに夢中な理由
東南アジア諸国では、動画配信サービスがまさに「娯楽の王様」になりつつあります。その背景には、国営放送中心で娯楽性が乏しいテレビ番組への不満や、地域によっては未だアナログのブラウン管テレビが主流であるという状況があります。そのため、より優れたコンテンツと高画質を提供するスマートフォンに、視聴者が急速に流れているのです。例えば、バンコク在住の30歳の大学院生は、ネットフリックスを含む3つの動画配信サービスを利用し、スマホで欧米や韓国のドラマを見ており、「長いときは1日4~5時間見てしまう。画質が悪いのでテレビはほとんど見なくなった」と語っています。このリアルな声からも、視聴行動の変化が読み取れますね。
経済成長と生活習慣の大きな変化を背景に、この市場の成長スピードは驚異的です。米グーグルとシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスによる調査では、2018年時点で110億ドル(約1.3兆円)だったネットメディア市場が、2025年には3倍の330億ドルにまで拡大すると予測されています。この巨大な成長の可能性を狙っているのは、米中のIT大手だけではありません。東南アジア8カ国で配車サービスを展開するグラブは2019年5月末に、動画配信サービスへの参入を発表し、シンガポール・テレコム(シングテル)傘下の動画配信会社であるHOOQ(フーク)と手を組み、まずはシンガポールでアプリ経由での動画視聴を提供開始しました。また、インドネシアのネット通販大手ブカラパックも2019年6月にサッカーのライブ中継や子供向けアニメの配信に乗り出し、配車大手ゴジェックも参入を表明済みで準備を進めているようです。さらに、「アジア版ネットフリックス」と呼ばれるマレーシア発の動画配信ベンチャー、アイフリックスも、国ごとのローカル番組とリーズナブルな料金設定を武器に、すでに会員数を1,000万人以上に増やしています。このように、ローカル勢や異業種からの参入が相次ぎ、競争はますます激化しているのです。
私は、この市場の活況は、東南アジアの人々が求めていたエンターテイメントへの渇望が、スマートフォンの普及によって一気に顕在化した結果だと考えています。高品質で多様なコンテンツへのアクセスが容易になり、人々の生活に浸透していくのは必然の流れでしょう。特にローカルコンテンツの強さが目立っており、その土地ならではの文化や物語を深く掘り下げるアプローチが、視聴者の心をつかむ鍵となりそうです。
⏱️世界トップクラスのネット利用時間と潜在的な成長余地
動画配信サービスを巡る競争が激しくなっている要因の一つは、東南アジアという地域が持つ独自の特性にあります。スマートフォンの急速な普及が進んだ結果、この地域のインターネット利用時間が世界でもトップレベルに長いのです。イギリスの調査会社ウィー・アー・ソーシャルによると、一日の平均インターネット利用時間は、フィリピンでなんと10時間、タイでも9時間超に達しています。タイの場合、そのうち3時間44分が動画視聴に充てられており、インドネシアでも一日平均で3時間近く視聴されている状況です。これは、動画配信の先進国である米国の平均視聴時間(4時間14分)に急速に近づいていることを意味しています。
また、潜在的な成長余地の大きさも、世界のIT巨人を惹きつける大きな魅力です。ドイツの調査会社スタティスタのデータでは、売上高で見た定額制動画配信の最大市場は、全体の46%を占める米国であり、中国が7%、日本が6%と続きます。東南アジア10カ国を合計しても売上高のシェアは2%強に留まっているのが現状です。しかし、利用者数で見ると、東南アジアはすでに6%を占めており、日本(3%)やドイツ(2%)、英国(2%)を上回っています。これは、まだ利用料金を支払う定額制のサービスに移行していない視聴者が多数存在することを意味しているのです。
中間層の拡大という経済的な追い風もあり、各社が提供するコンテンツの魅力を高めていくことで、現在無料・広告モデルで視聴しているユーザーを、収益性の高い定額制サービスへと誘導できる大きなビジネスチャンスが広がっていると言えるでしょう。この巨大な市場で、ネットフリックスやテンセント、そして地元勢がどのような戦略を展開し、誰が「娯楽の王様」の座を射止めるのか、今後の展開から目が離せない状況です。多くの視聴者にとって、より多様で質の高いエンターテイメントが提供されることは、大変喜ばしいことに違いありません。
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