世界の産業を支える「産業のコメ」とも呼ばれる鉄鋼市場に、大きな激震が走っています。2019年11月6日の報告によりますと、主要な鉄鋼製品である熱延コイルの価格が急落し、米国市場でも約3年ぶりとなる1トンあたり600ドルの大台を割り込みました。
ここで言う熱延コイルとは、スラブと呼ばれる鋼鉄の塊を高温で加熱し、薄く延ばしてロール状に巻いた製品のことです。自動車の車体や建材、家電製品など、私たちの身の回りにあるあらゆる製品の材料として欠かせない、非常に汎用性の高い基礎資材となっています。
米国の調査機関であるスチールベンチマーカーが公表したデータによれば、現在の米国内価格は1トンあたり560ドル前後まで落ち込みました。わずか1カ月の間に価格が約1割も下落した計算になり、かつての高騰ぶりが嘘のような冷え込みを見せているのが現状でしょう。
SNS上では、この急激な価格変動に対して「景気後退の予兆ではないか」と不安視する声や、「製造コストが下がるのは歓迎だが、デフレ圧力が怖い」といった多様な反応が飛び交っています。市場関係者の間でも、この底打ち感の見えない下落基調に緊張が走っています。
トランプ政権の関税政策と供給過剰のジレンマ
時計の針を少し戻すと、2018年の春にトランプ政権が海外製鉄鋼への追加関税を強行した時期がありました。この政策によって米国内の供給が絞られた結果、2018年の夏には10年ぶりの高値となる1トン1000ドルという驚異的な水準まで跳ね上がったのです。
当時は米国の鉄鋼メーカー各社がこの相場高の恩恵をフルに享受し、華々しい業績を上げていました。しかし、高い利益を求めて各社が増産に踏み切ったことが仇となり、市場には徐々に供給過剰感が漂い始め、価格は下落トレンドへと転換してしまったようです。
さらに追い打ちをかけているのが、長期化する米中対立による世界的な景気減速の影響です。特に鉄鋼の主要な買い手である自動車産業などで鋼材需要が目に見えて鈍化しており、余った在庫が価格をさらに押し下げるという負の連鎖が起きていると分析されます。
編集者の視点から言えば、保護貿易による一時的な価格吊り上げが、結果として産業全体のバランスを崩してしまった印象は拭えません。自由競争が制限された歪みが、巡り巡って現在の深刻な価格低迷を招いている事実は、経済政策の難しさを物語っていると言えるはずです。
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