生産人口の減少と社会情勢の複雑化が加速する現代において、企業経営の最重要課題は何でしょうか。2018年に日本能率協会が実施した「経営課題実態調査」によると、中小企業の経営課題の第1位は「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)」が48%を占めていたといいます。政府が女性やシニアの活躍推進、外国人労働者の受け入れ、そして就職氷河期世代の正社員登用など、多様な施策を打ち出している背景には、企業にとって人材の確保、育成、そして「リテンションマネジメント」(優秀な人材の定着を図るための就業環境整備)が、もはや事業継続の死活問題になっているという現実があるのでしょう。
こうした時代認識のもと、日本能率協会は2011年から、経済的な成長だけでなく「人・組織・社会の3つの成長視点で考える組織」を意味する「KAIKA組織」という概念を提唱し、その実現に向けたさまざまな優良事例を発信してきました。KAIKAとは、価値観の多様化・多元化が進む社会において、組織のあり方そのものを変革し、持続的な成長を目指すための羅針盤とも言えるでしょう。今回は、このKAIKA組織のヒントとなる、地方企業の具体的な事例から、組織のあるべき姿を考えてみたいと思います。
静岡県にあるバネ製造の沢根スプリングは、事業モデルを大量生産から、顧客の細かいニーズに応える少量多品種のものづくりへと転換されました。それと並行して「人を大切にする会社」を経営の旗印に掲げたのです。彼らがユニークなのは、社内の人事・評価システムに、一般的な業務目標や数字目標だけでなく、個人のプライベートな目標も設定し、社内報などを通じて積極的に共有した点です。
この「共感のマネジメント」とも呼べる取り組みは、社員同士がお互いの目標を理解し、働き方を調整し合うという文化を生み出しました。その結果、ある社員は世界一周の夢を実現し、またある社員は読みたい本を読破するといった、個人の成長と幸福が促されたのです。組織内のコミュニケーションも活性化し、結果的に同社は離職率がほぼゼロという驚異的な経営を実現しています。
もう一つの事例は、千葉県君津市にある廃油リサイクルの千葉オイレッシュです。立地条件は決して恵まれているとは言えませんが、社長の「人にやさしい企業にして、この地で会社を継続する」という強い信念のもと、「都市部と同程度の給与・人事体系」を目標に掲げました。特に注目すべきは、社内の収支を社員に「見える化」したことです。これにより、社員は努力が給与に反映される仕組みを理解し、自発的に休みを調整し合う協力体制が生まれ、創業以来の黒字経営と離職率ゼロを達成しています。
これら二つの企業の成功事例に共通しているのは、経営トップが「社員を大切にする」という理念を明確に打ち出し、それを行動によって示し続けたという点です。社員側も経営を他人事(ひとごと)ではなく「自分ごと」として意識するようになり、主体性、すなわち自立心を育てることができたのです。これにより、人材の成長と定着が実現し、それが事業の好調という成果へと結びついているのでしょう。このニュースは当時、「中小企業の希望だ」「共感する経営が大事だと改めてわかった」といったSNSでの反響を呼び、多くの経営者やビジネスパーソンに新たな気づきを与えました。
先の見通せない不確実な社会において、組織の規模に関わらず、自社の多様性や人材育成力、自立心の醸成、そしてトップと社員の間の深い理解と共感こそが、変化に対応し、持続的に成長していく組織の鍵になることは間違いありません。日本能率協会で長年、様々な産業や研究開発部門の課題解決に携わってきた安江あづさ氏の言葉は、これからの時代の人材マネジメントにおいて、私たちが真っ先に取り組むべきヒントを示していると言えるでしょう。
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