映画鑑賞後の感動や興奮を、誰かと熱く分かち合いたい――そんな映画愛好家の強い想いを受け、今、イベントや専門カフェといった「語らいの場」が大きな盛り上がりを見せています。また、専門家を招いたトークショーに注力する小型映画館の誕生も相次いでおり、作品を劇場内で楽しむだけではなく、共通の仲間を見つけ、意見交換をすることこそが映画の醍醐味であると考える人々が急速に増加している模様です。
たとえば、2017年のアカデミー賞で監督賞を含む6部門を受賞し、世界的な話題をさらったミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』は、公開から時を経てもなお、ファンの熱が冷めていません。この熱狂はオンラインを起点に、現実の交流へと発展しています。インターネット企業「つみき」(東京都目黒区)が運営する映画専門の交流サイト「フィルマークス」では、あるユーザーが呼びかけ人となり、都内のカフェに約60名のファンが集結しました。彼らのほとんどが初対面でありながら、作中曲のイントロクイズやジャズの生演奏に満面の笑みを浮かべ、交流を深めたそうです。
このイベントを主催したアパレル企業勤務の女性(ユーザーネーム:DYZさん、28歳)は、フォロワーを1,200人以上抱えるインフルエンサーでもあります。彼女はハロウィーンで劇中の衣装の仮装イベントを開くなど、数多くのファン集会を企画しており、「映画は感想を誰かと共有して初めて完結する楽しみ」だと熱弁しています。このようなファン主導のコミュニティ活動は、「映画愛を媒介とした仲間づくり」という新しい価値観を生み出していると言えるでしょう。
フィルマークスへのコメント書き込み数は年々増加しており、その勢いは年間1,700万件に迫り、3年前と比較して実に4割増となっています。このようなオンラインでの活発な交流は、オフライン、すなわち「顔を合わせた交流」にも発展しているのが特徴です。映画の感想を語り合うことが、職場でのコミュニケーションを円滑にするツールとしても注目されているのです。
配給会社のポルトレ(東京都渋谷区)は、法人向けに出張上映サービス「オフィスDEえいが」の本格展開を計画しています。これは企業の会議室などで社員が共に映画を鑑賞し、感じたことを語り合うという内容です。たとえば、人生100年時代をテーマにするなら老夫婦を主人公としたドキュメンタリー『人生フルーツ』、仕事と生活の調和、すなわちワークライフバランスを考えるならドキュメンタリー『みんなの学校』といったように、目的に応じた作品が用意されています。
実際にこの研修サービスを利用したデザイン会社ロフトワーク(東京都渋谷区)からは、「仕事中に映画の特定の場面を挙げて議論することがあり、チームの活性化につながった」というポジティブな声が聞かれました。映画というエンターテインメントが、企業研修や職場内コミュニケーションの質の向上という「プラスアルファ」の価値を提供し始めていることは、大変興味深い現象だと考えられます。
☕️映画ファンが集う「聖地」の進化
古くから映画ファンが集まる喫茶店は存在していましたが、客層や店主の世代交代が進む中で、新しいコンセプトを持つ店舗が続々と登場しています。たとえば、JR中央線高円寺駅(東京都杉並区)の目の前に位置するカフェバー「BIGFISH」は2018年末にオープンしました。2019年6月前半の週末には、岡部達也さん(27歳)がこの店で出会った10名ほどの映画仲間と一緒に、「今話題の洋画『アラジン』を一緒に見てきたばかり」と、喜びの声を弾ませていました。
また、東京都渋谷区にあるカフェ「モノクローム」では、コーヒー好きとして知られる映画監督デヴィッド・リンチ氏がブレンドした特別な一杯が提供されています。こちらの常連である逸見由紀子さん(47歳)は、「映画を見た時に、一度では理解できなかったシーンでも、他のお客さんの解釈を聞くことですっきりと腑に落ちる」と、対話の重要性を実感しているようです。
映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、「近年は、洋画『ボヘミアン・ラプソディ』が空前の人気を博すなど、若者の映画への関心は一時期よりも高まっています。さらに、SNSのような交流サイトの普及によって、コミュニティが格段に広がりやすくなっているのです」と現状を分析しています。これは、単に作品のヒットに留まらず、ファンダム(熱狂的なファン層)が形成されやすい土壌が整ったことを示唆していると言えるでしょう。
🎞️ミニシアターが仕掛ける「対話型」鑑賞体験
大規模複合施設に設けられた「シネマコンプレックス(シネコン)」に押され、独立系の映画館(いわゆるミニシアター)の数は減少傾向にあります。しかし、その一方で、これまでよりも座席数が少ない数十席から50席程度の小型スクリーンを持つ映画館が相次いで生まれています。これは、柔軟な運営体制を活かし、来場した観客と作品の関係者との「対話」を鑑賞体験の目玉としているからです。
配給会社のアップリンク(東京都渋谷区)が2018年末に東京都武蔵野市で開業した映画館では、フィギュアスケートを題材にしたドキュメンタリー『氷上の王、ジョン・カリー』が2019年5月末に公開されました。この上映に合わせて、評論家がフィギュアスケートと密接な関係があるバレエの歴史などを、実演を交えながら解説するイベントが開催されました。参加した今西杏子さん(36歳)は、「作品に対する理解度と、その作品への思い入れがより一層深まりました」と感想を述べています。
このように、映画を巡る楽しみは、作品そのものの鑑賞に留まらず、「プラスアルファの情報や刺激」による仲間づくりへと、その価値を広げています。これは、SNSなどデジタルなツールが、人々の「感情を共有したい」という根源的な欲求を満たし、より豊かな対話を生み出す場を創出しているからに他なりません。映画というコンテンツが持つ可能性は、今後も様々な形で広がりを見せていくことでしょう。
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