2019年12月15日現在、東京都現代美術館では画家・伊庭靖子氏の個展「まなざしのあわい」が開催されており、多くの美術ファンを虜にしています。本展のテーマとも呼応する「reverberation(リバーブレーション)」、つまり「残響」という言葉は、彼女の作品の本質を実に見事に射抜いていると言えるでしょう。キャンバスに描かれているのは、どこにでもあるような器やクッションといった身近なモチーフですが、そこには現実を超越したかのような光の粒子が宿っています。
SNS上では、展示を訪れた方々から「絵画なのか写真なのか判別がつかないほどのリアリティに圧倒された」という驚きの声が続出しています。しかし、単なる写実主義(対象をありのままに再現する手法)とは一線を画すのが伊庭作品の真髄です。彼女は対象そのものを描くのではなく、対象と私たちの視線の間に存在する「光」や「空気の揺らぎ」を定着させようと試みています。この独自の視覚表現が、見る者の心に心地よい「残響」を残すのかもしれません。
マクロな視点が解き明かす、触覚的な絵画の魅力
伊庭氏の制作スタイルは、まず自ら撮影した写真をベースに、その被写体の質感を極限まで追求していくというものです。2019年に入ってからの新作群では、これまで以上にモチーフへのクローズアップが際立ち、物質の境界線が曖昧になるほどの抽象性を帯びています。編集者の私見としては、彼女の作品は「目で触れる」ような感覚を呼び起こす稀有な存在だと感じます。陶器の滑らかさや布の柔らかさが、視覚を通じて肌に伝わってくるような錯覚さえ覚えるのです。
専門的な用語で言えば、彼女の筆致は「ストローク(筆の運び)」が極めて繊細であり、絵具の層を重ねることで独特の透明感を生み出しています。これにより、画面全体が発光しているかのような神々しさが宿るのでしょう。デジタルデバイスの鮮明な画像に慣れきった現代の私たちにとって、2019年12月15日の今、あえて静止した絵画の前で立ち止まり、光の余韻に浸る時間は、何物にも代えがたい贅沢な精神的充足をもたらしてくれるはずです。
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