長年にわたり愛されるお菓子を世に送り出してきたカルビーが、創業70年を迎えた2016年秋、そのルーツである広島に設立した「カルビーフューチャーラボ」。この新しい商品開発拠点で、クリエーティブ・ディレクターを務めているのが山辺昌太郎さん(当時49歳)です。彼に与えられたミッションは、きわめて挑戦的でシンプルなものでした。それは「3年間で3つのヒット商品を生み出すこと」です。開設から3年目を迎える2019年、山辺さんは一般消費者の視点を徹底的に追求した商品開発を実践し、老舗菓子メーカーのカルビーにこれまでにない新しい発想と活気をもたらそうとしていらっしゃいます。
カルビーフューチャーラボのオフィスの一角には、生活に関する些細な事柄を書き出した色鮮やかな付箋が数多く貼られています。「一人で暮らしていると魚料理を作るのが億劫になる」「コーヒーとタバコは相性が良い」といった、ごく日常的な食生活や習慣に関する気づきが並んでいるのです。ラボでは、広島県内の大学生たちと連携し、これまでに延べ1700名を超える消費者への綿密な取材を実施してまいりました。
取材内容は、単に食に関する話題に留まりません。「何よりも娘のことが最優先である」「職場では同僚との交流がほとんどない」など、人々の日常生活で感じたさまざまな感情や状況を「気づき」として収集・共有されています。現在、その付箋の数は2400枚を超えており、これらが全て、新商品のアイデアやコンセプトを生み出すための重要なインスピレーションの源になっている、と山辺さんは語ります。
💡異業種での経験が活きる!新規事業立ち上げの「スクラップ・アンド・ビルド」精神
山辺さんは広島で生まれ育ち、修道高校から京都大学に進学されました。大学卒業後に就職されたのはリクルートで、医療や金融分野での新規事業立ち上げ、さらには転職情報誌の編集など、多岐にわたる業務に従事されてきました。リクルート時代に山辺さんが深く学んだのは、思い切った見直しや再構築を意味する「スクラップ・アンド・ビルド」の精神です。
新規事業としてローン比較サイトを立ち上げたものの、わずか半年で事業の撤退を告げられた経験があります。当時の上司から受けた「リセットボタンを押せる人であれ」という教えは、今も山辺さんの行動規範として大切にされているとのこと。この、既存の枠にとらわれず物事をゼロから再スタートできる姿勢が、カルビーの江原信副社長(当時)の目に留まり、今回のフューチャーラボのディレクターに抜擢されるきっかけとなったようです。
約30年ぶりに故郷の広島に戻った山辺さんが、まず肌で感じたのは、広島東洋カープに対する地元の人々の並々ならぬ熱意でした。普段は物静かな方でも、カープの試合を見ると人が変わったように熱狂する姿を目の当たりにしたそうです。応援が人に元気を与え、力を引き出してくれるというこの事象を、山辺さんは重要な「気づき」として付箋に書き記しました。
⚾「応援」を形にしたヒット作!地域密着スナック「ふるシャカ」の魅力
この「応援」というキーワードを基に開発されたのが、地域応援スナック「ふるシャカ」です。サイコロのような四角い形状のジャガイモフライに、別添ののり塩味の粉末をかけて容器ごと上下に振って混ぜるスタイルが特徴です。容器には広島東洋カープのマスコットキャラクターである「カープ坊や」のデザインが施されています。球場での観戦中に、周りを気にせず「シャカシャカ」と音を立てて楽しむのが醍醐味となっています。
この「ふるシャカ」は、地域密着型の成功事例として全国展開が進められています。2019年3月からは、東北楽天ゴールデンイーグルス仕様の「ふるシャカ」も販売されるなど、SNS上でも「これはお土産に絶対欲しい!」「観戦がさらに楽しくなりそう」といった地域ファンの喜びの声が多数見受けられ、大きな反響を呼んでいるのです。
山辺さんが目指しているのは、単にヒット商品を生み出すことだけではありません。それ以上に「ヒット商品が自然と生まれ続ける仕組みそのもの」を、このフューチャーラボで構築したいと考えていらっしゃいます。開設から3年目を迎え、「ふるシャカ」に続く新たな商品の発売準備も着々と進められています。「ゼロからイチを創り出す作業は大変ですが、それだけに非常に面白い」と語る山辺さんの表情は、無数の「気づき」の付箋を見つめながらも、どこか楽しげで充実しているように見受けられます。既存の常識を打ち破る、消費者起点の開発アプローチが、今後のカルビーにどのような革新をもたらすのか、大いに期待できるでしょう。
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