日本酒の銘醸地、長野県から、業界の地図を塗り替えるかもしれない「新星」が誕生し、二〇一九年五月二十八日、大きな話題となっています。長野県農業試験場が開発した新しい酒米(さかまい)、その名も「山恵錦(さんけいにしき)」を使った日本酒が、ついに本格的に私たちの食卓に届き始めました。これは、長野県の酒造りが新たなステージに入ったことを示す、重要な出来事と言えるでしょう。
「山恵錦」は、正式名称を「信交酒545号」と言い、二〇一七年に県の認定品種(その地域での栽培に適していると公式に認められた品種)となったエリート米です。ここで言う酒米とは、日本酒造りのために特別に栽培されるお米のことで、一般的な食用米とは異なり、粒が大きく、中心部に「心白(しんぱく)」と呼ばれるデンプンの塊があるのが特徴です。「山恵錦」は、酒米の王様「山田錦」の系統と、長野の気候に適した「ゆめしなの」の系統を交配(異なる品種の長所を組み合わせること)させて誕生しました。
この新品種の最大の強みは、長野県の従来の主力であった「美山錦」と比較して、稲が倒れにくく、病気や冷害にも強いという「タフさ」にあります。近年の異常気象を考えると、この特性は生産者にとって計り知れない恩恵をもたらすはずです。それでいて、味わいは「さっぱり」としたキレの良さが特徴だと言います。このニュースに、SNS上では「美山錦との飲み比べが楽しみ!」「長野の本気が伝わる」といった期待の声が早くも集まっています。
長野県の期待は非常に大きく、二〇一八年にわずか二十一ヘクタールだった作付面積(さくつけめんせき。実際に作物を植えている広さ)を、二〇二二年までには八十一ヘクタールへと約四倍に増やすという、野心的な方針を打ち出しています。その本気度は、二〇一九年五月二十日に開催されたお披露目会からも伝わってきました。すでに県内の二十七もの酒蔵がこの新しい米での酒造りに挑戦しており、試飲した阿部守一長野県知事も「とてもおいしい。全世界に発信しなければならない」と大絶賛したのです。
私自身、「美山錦」という不動のブランドを確立している長野県が、あえて「山恵錦」という第二、第三の矢を放ったことに、深い感銘を受けます。これは、現状維持に甘んじることなく、気候変動や多様化する消費者の好みに対応しようとする、極めて戦略的な「攻めの農業」の姿です。知事が語るように、この「山恵錦」が、長野の日本酒の魅力をさらに世界へ広めるための、力強い翼となることを心から期待してやみません。
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