夏の夜空を鮮やかに彩る「打ち上げ花火」。その背後には、想像を超える熟練した職人たちの緻密な技術が息づいています。しかし、実はその奥深い世界の一部を、私たち素人でも体験できるというのです。この記事では、ライターが実際に花火作りを体験し、その感動と職人技の神髄、そして進化する花火大会の演出技術についてご紹介します。
今回、記者が訪れたのは、大阪市に拠点を置く「葛城煙火」の奈良工場(奈良県香芝市)です。打ち上げ花火の制作工程は多岐にわたりますが、安全上の配慮から、一般の体験者が携われるのは、花火の光を担う「星」と呼ばれる火薬の粒を、半球状の「花火玉」に詰める作業と、その半球を貼り合わせ、外側をクラフト紙で包んで最終的な「花火玉」を完成させる工程のみとなっています。それ以外の火薬の製造や乾燥といった工程は、プロの職人さんに委ねる形となります。
打ち上げ花火の構造は、上空で星を放射線状に美しく広げるために、花火玉の中央に「割薬」という火薬を配置し、その周囲に星を敷き詰めるという形になっています。この星の配置が、空中で花開いたときの「開花」の形を決定づけるのです。例えば、花火大会のメインを飾ることも多い直径30センチメートルの「10号玉」は、高度300メートルに達し、約280メートルもの大輪を咲かせます。今回の体験では、それよりも小ぶりな、直径3センチメートルの「3センチ玉」を制作しました。
まず体験者が悩むのは「星選び」です。直径4.5ミリメートルほどの黒い粒が、夜空で青や紫などの鮮やかな光へと変化します。記者は約20種類の中から、日本の伝統的な風情を持つ「和火」という、やわらかい黄色に発色する星を選択しました。さまざまな色を組み合わせるのも魅力的ですが、今回は花火玉のサイズを考慮し、あえて一色に絞り込むというシンプルな構成に挑戦しています。
葛城煙火の製造部課長である浜辺真人さんによれば、花火作りは今なお、その全工程がほぼ手作業で行われているという事実に驚かされます。私たちが普段、コンビニエンスストアなどで手にする安価な花火セットであっても、一本一本、職人が手作業で火薬を詰めているというのです。この伝統と手間暇こそが、花火の魅力の源泉だと言えるでしょう。記者は、なるべく大きな花火になるよう、割薬をまぶした後に、上限の5.5~6グラムいっぱいに星を詰めてもらいました。
次に難しいのが「割薬」の分量調整です。今回の3センチ玉では、上限が1.5グラムと定められています。分量が少なすぎると、花火は空中で小さくしか開かないため、最適な量を目分量で素早く、そして安全に入れるのが、職人の腕の見せ所だそうです。浜辺さんはものの5分ほどで作業を終え、その手際の良さにプロの技術力を感じました。こうして、花火玉自体はわずか30分ほどで完成に至ります。
日が落ちた午後8時すぎ、いよいよ自作の花火を点火する瞬間です。「ポン」という軽やかな音と共に、黄色い炎が高さ15メートルほどまで上昇し、一瞬周囲を明るくした後、すぐに星くずのように散っていきました。正直に言えば、「上空で開花した」というよりも「火柱が上がった」という印象に近い出来栄えでしたが、それでも自作の花火が夜空を飾る光景に、記者は感動を覚えました。
プロの「職人製花火」が魅せる圧倒的な迫力
しかし、直後に見た職人さんによる花火は、素人作品との間に歴然とした差があることを思い知らされました。一筋の光が高さ20メートルほどまで昇ると、火の玉が「パッ」と大輪の花を咲かせ、「バチバチ」という小気味よい音が響き渡ります。さらに、中から小さな火の玉がいくつも飛び出し、キラキラと輝きながら地上へと降り注ぐのです。その高さ、迫力、美しさすべてが段違いで、思わず歓声が上がったほどです。これこそ、私たちが夏祭りなどで目にし、心奪われる「打ち上げ花火」そのものでした。
この差の秘訣は、古賀章広社長によると「花火玉の包み方」にあるそうです。記者がクラフト紙を1枚巻いただけだったのに対し、本来は内部を炎から守り、より高い位置で「開花」のタイミングを遅らせるため、厚さ約0.5ミリメートルのクラフト紙を3枚重ねて巻くのが正解だといいます。職人さんの作品は、同社オリジナルの「火希(ひまれ)」という花火で、記者と同じサイズの玉と星を使用しながらも、「菊花」と呼ばれる音を立てて火の玉を散らす星をわずかに加えているそうです。たったこれだけの細かな工夫が、出来栄えを全く別次元のものへと変えてしまうのです。
市販される花火の開発には、通常2年ほどの期間を要すると言います。一度、火薬の分量や配置といった「レシピ」が固まってしまえば、それを再現するのは難しくありません。しかし、古賀社長は「最初にイメージした炎の大きさや、色が変化するタイミングを完璧に表現するまでが、最も大変な工程」だと語っています。これは、レシピ通りに作ればおいしい料理は作れても、そのレシピ自体を生み出すのが極めて難しいという理屈と同じでしょう。花火職人の仕事は、光と音の芸術をゼロから創造する、まさにクリエイティブな仕事だと感じました。
伝統を守りながら進化を続ける「日本の花火技術」
夏の風物詩である打ち上げ花火は、今でも大半の工程が手作業ですが、その演出技術は着実に進化を遂げています。かつては職人さんが担っていた点火作業も、現在ではコンピューター制御が主流となりました。これは、花火大会に求められる演出効果が高度化していることが背景にあります。コンピューターを使えば、100分の1秒単位という極めて緻密な点火タイミングを設定することが可能になり、同時に打ち上げられる花火の本数も飛躍的に増大したのです。
毎年8月に秋田県で開催される「全国花火競技大会」では、全国の選りすぐりの花火職人がその技術を競い合います。近年は、音楽と花火を完全に同期させる「創作花火」が大変な人気を集めています。複数の花火が空中で開くタイミングと、音楽の盛り上がりの瞬間を完璧にシンクロさせ、観客からため息が漏れるほどの感動的な空間を演出します。
また、色とりどりの火薬を使って、巨大なパネルにドラゴンやバラの花といった絵柄を表現する「モザイクアート花火」といった新技術も登場しています。このように、伝統的な文化を守りつつも、最新のテクノロジーと融合し、常に革新し続ける日本の花火技術は、まさに世界に誇るべきものだと、私は強く感じています。今回の取材を通じて、打ち上げ花火は、単なる夏の風物詩ではなく、職人の情熱と最先端の技術が詰まった、奥深い総合芸術であることを改めて知ることができました。
打ち上げ花火以外にも、線香花火などを制作できる体験教室は全国各地で催されています。葛城煙火でも、時期や制作量によって異なりますが、5千円から6千円程度で受け付けているとのことです。子供たちの好奇心を満たすだけでなく、大人も童心に帰り、日本の伝統技術の奥深さを体感できる貴重な機会となるでしょう。
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