今日の運勢、気になりますよね。「2019年、ついに運命の人に出会えます!」――タブレット端末の画面越しに、有名占い師ゲッターズ飯田さんが私(29歳)に語りかける広告を目にした瞬間、指が止まりました。なぜ、私が興味を持つはずのない「占い」の広告が、私用ではない共有端末に表示されるのでしょうか。私たちが暮らすインターネットの世界では、個人の趣味や嗜好をピンポイントで狙い撃ちする「ターゲティング広告」が日常的にあふれています。なぜいつも同じ広告が届くのか、なぜ自分の趣味嗜好が知られているのか、そこには見えない「仕組み」が張り巡らされているのです。
私自身、普段から閲覧履歴や検索履歴に趣味嗜好が反映されないよう、最大限の注意を払っていました。それなのに、妻と共有している家のタブレットには、私がスマートフォンで「こっそり」楽しんでいたゲームやアニメの広告だけでなく、なぜか恋愛運を占う広告まで表示されるのです。「まさか、私の夜のネットライフが妻に筒抜けになるのでは?」と、背筋が寒くなる思いでした。私を追跡するかのように表示されるこれらの広告は、一体どのような「謎」の技術によって成り立っているのでしょうか。
この謎を解明するため、まず私は「ゲッターズ」のサイト運営企業であるサイバーエージェント傘下のCAM(東京・渋谷)に、2019年6月上旬、取材を申し込みました。しかし、2日後に届いた返事は、「広告配信のアルゴリズムやロジックは回答しかねる」という、非常にそっけないものでした。納得がいかない私は、「プランB」として、別の企業を訪ねることにしました。東京都千代田区にある三井物産は、2017年から米IT(情報技術)企業、ドローブリッジ社の代理店を務めていると聞いたからです。ドローブリッジ社は、ネット上の住所である「IPアドレス」や閲覧情報などから、同一人物が使用する複数の端末データを統合する技術を持っています。
この技術、クロスデバイストラッキングと呼ばれるものですが、これを使えば、昼間は会社のパソコン、夜は自分のスマートフォンといった具合に、複数の端末を使い分けている人にも、同じ広告を効率的に届けられるようになるのです。CAMがこの技術を利用し、私のスマホとタブレットを「紐づけ」たのではないかと考え、再度問い合わせましたが、「提携先がどんな技術を使っているか把握できない」という、驚くほど無責任な返答でした。私は「誰が、どのような技術で私を操ろうとしているのか」という疑問を抱え、完全に解明するには至りませんでした。
そうこうする間にも、文言を変えたり、他のブログ記事に紛れ込ませたりと、さまざまな占いの広告が私に働きかけ続けました。驚くべきことに、こうした広告の訴求力は非常に高く、つい指が伸びてしまうほどです。知り合いのITスタートアップ経営者である山内大輔さんは、「残念ながら、政治などに悪用されかねない事例も含め、人の心まで動かせる技術が登場しています」と教えてくれました。実は私が占い好きになった背景にも、山内さんが開発する新技術が関わっていました。ツイッターに書き込んだ投稿内容などから、人工知能(AI)が私の深層心理を解析した結果、「好きになりそうな分野」として占いが浮かび上がったというのです。
「占いなんて非合理的だ」と考えていたにもかかわらず、気付けば運勢を確認することが毎日の習慣になってしまいました。このように、スマートフォンに蓄積された閲覧履歴が新たな広告を引き寄せ、その広告によって私の行動や考え方が少しずつ変えられていくという「ループ」の中で、無意識のうちに私自身が変化していったのかもしれません。この現象こそ、利用者の興味関心に合わせて情報が最適化される結果、多様な情報から隔絶されてしまう「フィルターバブル」や「偏見空間」の温床となる可能性を秘めているのです。
私が最も驚いたのは、「私の個人情報をどう使っているのか、開示してください」と問い詰めた全ての広告会社が一斉に口を閉ざしたことです。現在の日本の法律では、ネットの閲覧履歴や位置情報は「個人情報」に該当しません。そのため、企業側に利用方法の説明義務がないというのが現状です。サイバーエージェントの広報担当者は、「広告配信の仕組みを知られること自体が炎上リスクなんです」と申し訳なさそうに言いましたが、私からすれば「何も分からない」ことこそが個人にとって最大のリスクであると断言できます。
情報提供の「ブラックボックス」と向き合う
もちろん、ネットの追跡網は、上手に使いこなせば格段の便利さをもたらしてくれます。知りたい時に知りたいニュースを教えてくれたり、欲しい時にお薦め商品を届けてくれたりする「AI執事」のような未来も夢ではないでしょう。しかし、それが実現するのはもう少し先の話かもしれません。「30歳。そろそろ転職?」—この記事を書きながらも、ありがた迷惑な広告が私の元に届きます。この広告は私の年齢を惜しくも2週間間違えていますが、またどこかの誰かが私を操作しようとしているのは明白です。このテクノロジーの進化は止まらないでしょう。そして、その全容をつかみにくい「ブラックボックス」は増殖していく一方です。
私見ですが、私たち個人がインターネットを快適に利用するためには、企業側の情報開示を促す法整備が必要不可欠です。広告配信のアルゴリズムは企業秘密かもしれませんが、個人データの利用目的や範囲については、利用者が容易に確認できるような仕組みが求められます。また、望まない個人データの利用を断れる「使わせない権利」の導入は、2020年以降の予定と先になりますが、一刻も早く実現してほしいと強く望みます。
2019年6月28日から29日にかけて日本で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に集まるリーダーたちも、この「データエコノミー」が生み出す変化に対して、新しいルール作りをせかされている状況です。新たなイノベーションが次々と生まれる一方で、情報資源の使い道や価値が問い直されています。国際社会すら戸惑うこの変化に、私たち一人ひとりがどう向き合っていくのか、真剣に考え始める時が来たと言えるでしょう。
ネットにあふれる広告が私の頭を支配する(約2週間のうちに受け取ったネット広告110枚から作成)という図が示す通り、私たちの行動はすでにテクノロジーによって深く影響を受けています。この広大な実験室のようなデータエコノミーの世界で、どのように自律性を保ち、どのように便利さを享受していくのか。そのバランスを見つけ出すことが、現代に生きる私たちの重要な課題となるでしょう。
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