2019年6月現在、アメリカの金融政策を巡る議論が世界的に注目を集めています。政策金利が歴史的な低水準にあるにもかかわらず、市場では利下げ観測が強まっており、連邦準備理事会(FRB)による金融緩和がどこまで進むのかが焦点となっています。この重要なテーマについて、FRBが2019年6月4日から5日にかけて開催した会議に出席した、ハーバード大学のジェームズ・ストック教授にお話を伺うことができました。
ストック教授は、政策金利が低い状況下で次の景気後退期が到来した際、FRBがどのように対処するのかは極めて重い課題であると指摘しています。2019年6月のシカゴでの会議では、この難局に対する包括的な議論が公開の場で行われました。このような難しい局面だからこそ、国民が金融政策に関心を持ち、FRBが広く意見を聞き入れる姿勢を示すことは重要である、との見解を示されました。
ゼロ金利制約の壁:伝統的手法に限界
FRBが直面する最大の課題は、金利をゼロパーセント以下に引き下げるのが難しいという**「ゼロ金利制約」です。これは、政策金利をマイナスにすると、銀行や運用業界へ大きな影響が及び、政治的にも実行が容易ではないためです。ストック教授の試算では、仮にこの制約がなければ、2008年から2009年の金融危機の際には、政策金利をマイナス5パーセント程度まで引き下げる必要があったにもかかわらず、実際にはそれが困難でした。その結果、雇用の回復が遅れ、金融緩和の長期化を招いたという厳しい現実があったのです。
では、FRBが金融危機後に用いた「非伝統的な金融緩和」**にはどれほどの効果があったのでしょうか。ストック教授によれば、「フォワードガイダンス」(当面の間、低金利を維持することを約束する政策)や、長期国債の購入は、長期金利を引き下げる点で一定の効果を発揮しました。これらの非伝統的な手段は、利下げに換算するとおよそ1パーセント程度の効果があったと考えられています。しかし、これはゼロ金利制約を完全に解消するほどの力を持つものではない、と評価されています。
私の意見としても、ゼロ金利制約は中央銀行にとっての「アキレス腱」であり、特に低インフレが常態化している現代経済において、伝統的な金融政策の有効性を大きく削ぐ要因になっていると強く感じます。SNS上でも、「いざという時にFRBに打つ手が残っているのか?」といった懸念の声が多く見受けられ、ストック教授の分析の通り、市場の不安は高まっていると言えるでしょう。
次の景気後退にFRBは対応できるのか?
ストック教授は、もし1991年や2001年のような一般的な景気後退が再び訪れた場合、通常は約5パーセント程度の利下げが必要になると分析しています。しかし、現在の政策金利は2パーセント台前半にとどまっており、仮に非伝統的な資産購入策を組み合わせたとしても、十分な対応余地があるとは言い難い状況です。このままでは、失業率の低下が滞り、景気回復や物価上昇が鈍化してしまう可能性を指摘されています。
こうした厳しい状況の打開策として、FRBは日本銀行が採用している**「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」**の研究も進めているようです。これは、10年物国債の利回りを適切に誘導する手法であり、検討する価値のある政策手段であると教授は評価しています。しかし、アメリカ国債は日本国債に比べて市場規模が非常に大きく、実際に採用した場合にどのような結果をもたらすのか、まだ十分な検証材料が揃っていないという現状があります。
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物価目標の引き上げと金融システムへの配慮
金融政策の枠組みを巡る議論は、「2パーセント」の物価目標が適切かどうかにまで及んでいます。ストック教授は、物価目標を3パーセントに引き上げることを検討すべき選択肢の一つとして挙げています。これは、名目金利を高くすることで、将来の利下げ余地を確保することを目的とした考え方です。また、2019年6月4日から5日の会議では、物価上昇率を一定期間の平均で「2パーセント」を目指す手法も議論されました。これは、景気拡大期に物価上昇が一時的に2パーセントを上回ることを許容し、その代わり景気低迷期には金融緩和を長く続けるという柔軟な発想に基づいています。
一方で、金融緩和が過度になることへの懸念も存在します。ストック教授は、失業率が低いにもかかわらず物価が上がりにくくなっている現状で、低金利が長期化すれば**「資産バブル」を招きかねないと警鐘を鳴らしています。金融システムが複雑化している今、銀行以外の経済主体に対する規制や監督を含めた、包括的な政策設計が不可欠であると強調されました。
最後に、足元の懸念材料となっている「貿易戦争」**について、教授は貿易摩擦がアメリカ経済に及ぼす影響の程度は不明だとしながらも、FRBが利下げに慎重な姿勢を示せば、株価の下落を通じて景気に悪影響を及ぼしかねないと述べています。市場との対話を含め、FRBは極めて難しい判断を迫られている状況にあると言えるでしょう。教授は2013年から2014年にかけてオバマ政権の経済諮問委員会(CEA)委員も務めており、その見識に基づいた提言は、今後の米金融政策の行方を占う上で非常に示唆に富んでいるものです。
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