【企業統治の再構築へ】相次ぐ不祥事から見直す「強い監査役」の役割と内部監査部門との連携強化術

近年、日本を代表する大企業で不祥事が相次ぎ、企業の統治、すなわち「ガバナンス」が機能不全に陥っている実態が浮き彫りになっています。長らく欧米のルールを手本に改革が進められてきましたが、不正が後を絶たない現状を鑑みると、その手法には限界があると言えるでしょう。ここで改めて注目されているのが、本来企業統治の根幹をなすべき「守りのガバナンス」を固める動きであり、特に監査役が持つべき本来の機能を取り戻そうという主張が広がりを見せています。

象徴的な例として挙げられるのが、2019年3月に公表された日産自動車のガバナンス改善特別委員会の報告書です。この報告書は、当時会長だったカルロス・ゴーン被告が、自らにとって都合の悪い「うるさい監査役」を再任しなかったり、「何も言わない監査役を探してこい」と指示したりするなど、監査役によるチェック機能を意図的に排除しようとした経緯を詳細に示しています。不正が発覚したきっかけは、結局は監査役への内部通報でしたが、その疑惑が公になるまでには長い年月を要してしまいました。この事例は、監査役がその役割を適切に果たせない環境が、いかに長期にわたる不正を許してしまうのかを痛切に示唆しているのです。

東京証券取引所(東証)に上場する企業の約7割は「監査役会設置会社」という形態をとっています。法律の専門家である塚本英巨弁護士が指摘するように、監査役には「単独で取締役の行為を差し止めたり、会社を代表して取締役を訴えたりする」など、非常に強い権限が本来与えられているのです。しかし、ここ数年の日本のガバナンス改革は、リスクを適切に取りながら企業価値を中長期的に高める「攻めのガバナンス」に焦点が当てられてきました。しかし、相次ぐ不祥事の発生を受けて、不正の発見や防止といった「守りのガバナンス」の重要性が見直される、いわゆる「揺り戻しがきている」と松井秀樹弁護士は述べています。

このような状況の中、企業統治の質を高める具体的な手法として注目を集めているのが、社内の実情を最もよく知る「内部監査部門」と「監査役」の連携強化です。金融庁が2019年4月に公表した意見書でも、内部監査部門が経営陣から独立した立場の監督機関(監査役など)へ直接報告を行う仕組みの重要性が指摘されました。「実践コーポレートガバナンス研究会」の門多丈代表理事は、不正の兆候は現場の業務のほころび、つまり些細なミスや不備に現れるため、監査役が内部監査部門を有効に活用することで、企業への監視機能が飛躍的に向上すると提言しています。

金融機関から広がる監査役と内部監査の「デュアルリポート」体制

特に厳しい法令遵守が求められる金融業界では、すでにこの連携強化の動きが始まっています。新生銀行では、2017年4月から、内部監査で得られた情報を経営陣と監査役の両方に報告する「デュアルリポート」という仕組みを導入しました。同社の永田信哉・常勤監査役は、2019年1月に更新した基幹システムについて、準備段階で内部監査部門が指摘した不備に対し、現場が適切に対応したかどうかを細かくチェックしたと語っています。銀行にとって、システム稼働後のトラブルは、信用リスクの低下や大きな損失に直結するため、非常に重大な問題です。新生銀行は、内部監査の指摘に基づき、基幹システムの稼働を当初の予定から1年遅らせてまで、万全を期す対応をとっています。

また、不動産会社のトーセイでは、4人いる監査役の全員を、経営陣から独立した「独立役員」として選任しています。さらに、社外監査役が現場の実情を把握しやすいよう、様々な工夫を凝らしている点が特徴的です。平野昇・取締役によると、内部監査部門から2名を監査役の補助として配置し、部屋も隣接させて連絡を取りやすくしているそうです。加えて、年に3回、自社が取り扱う不動産物件へ監査役を案内し、管理状況について直接指摘を受ける場を設けています。平野取締役は、「資料だけでは見えない点を把握してもらうことが、より実効性の高い監査につながる」と、現場に根差した監査の重要性を強調しています。

資生堂の常勤監査役などを経て、現在、三菱商事や横河電機で社外監査役を務める高山靖子氏は、単に監査役に報告のルート(リポートライン)を設けるといった「形」ではなく、報告される内容そのものが最も重要であると指摘しています。監査役自身も常に「懐疑心」を持って、内部監査部門が指摘した不備が所定の期間内に確実に改善されたか、そのプロセス全体に厳しく目を光らせるべきだというのです。監査役と内部監査部門の連携確保の必要性は、東京証券取引所などが定める「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」にも明記されていますが、日本監査役協会の2017年の調査によれば、多くの企業で内部監査部門が社長を含む業務執行役員に直属している現状があります。

こうした中、複数の企業で監査役を歴任した大谷剛氏は、連携を一歩進め、監査役が内部監査部門に対して自ら指示を出せるようにすべきではないか、と提言しています。度重なる不祥事から企業への信頼を回復し、不正を未然に防ぐためのチェック機能を高めるには、強い権限を持ち、積極的にその役割を果たす「強い監査役」を確立することが、今、最も効果的かつ必要不可欠な取り組みであると私は確信しています。今後、この「守りのガバナンス」の再構築が、日本企業の信頼回復への鍵となるでしょう。

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