2019年6月24日付で公開された本特集では、「高齢化と金融包摂」をテーマにしたシンポジウムの議論を深掘りしています。長寿化が進む現代において、高齢者を単一の集団として捉えるのではなく、性差(ジェンダー)や社会・経済的な背景、そして健康状態といった多角的な要素から見つめ直す必要があるという、OECD金融課課長のアン・メッシ氏の指摘は非常に重要でしょう。一律の対策ではなく、個々人の多様性に対応した金融サービスや政策の構築が求められているのです。
南カリフォルニア大学ジェロントロジー大学院教授のピンチャス・コーエン氏は、高齢化の科学である「ジェロントロジー(老年学)」の重要性を説きました。これは社会科学、心理学、バイオロジー、医学など多岐にわたる分野が結集し、高齢化社会への対応策やサービス、政策に活かされている学問です。同氏は、G20各国で人口減少が進み、特に介護者の数が減っている現状に警鐘を鳴らしました。単に長生きするだけでなく、健康でいられる期間を示す「健康寿命」の延伸が喫緊の課題であり、適切な運動と食事が欠かせない要素だと強調されています。
もし健康寿命を延ばせなければ、「資産寿命」の問題に直面すると指摘されています。これは、貯蓄が健康維持のための医療費に費やされ、資産が減ってしまう事態を指します。特に懸念されるのが、米国をはじめ世界的に増加が予想されるアルツハイマー病で、その介護や看護にかかるコストは何兆ドルにも上るとの試算が示されました。この問題は個人の家計だけでなく、社会全体の経済にも大きな影響を及ぼすでしょう。私自身の意見として、健康寿命の延伸は、個人の豊かな老後を実現するだけでなく、持続可能な社会保障制度を維持する上でも、最も優先すべき国家戦略の一つだと考えます。
認知症患者の診療経験から金融機関との連携に関心を持つようになったという京都府立医科大学大学院教授の成本迅氏は、団塊の世代が高齢期を迎え、認知症の罹患率が高まる中で顕在化する、お金に関する様々な問題に焦点を当てています。具体的には、無駄な消費や特殊詐欺の被害に遭うリスク、さらには意思決定能力の喪失によって、自身の貯蓄を本来の目的のために使えなくなるという深刻な事態です。もし銀行に100万人の高齢顧客がいれば、年間で4千人が認知症を発症するという試算は、金融機関にとって無視できない現実です。特に家族からのサポートが期待しにくい独り暮らしの高齢者への支援は、金融機関の重要な役割になっていくでしょう。
バンクオブアメリカ・メリルリンチのマネージング・ディレクターであるスルヤ・コルリ氏は、高齢化社会は課題と機会の両方を提供すると述べています。同氏らが提唱する「ファイナンシャル・ケアギビング」という新しい概念は、感情的な側面だけでなく、金融面での高齢者ケアの重要性を強調するものです。アルツハイマー病の場合、自己負担額が約200万円(1万8千ドル)に達する可能性があることから、人生設計を考える上で家族が「家族の銀行」となり、金融的な備えをすることがファイナンシャルプランニングの極めて重要な部分になると提言されました。
野村證券社長の森田敏夫氏は、長寿を前提とした資産管理や資産承継サービスをどのように提供していくかが、金融業界にとっての重要な論点だと述べています。日本が抱える特殊な状況として、世界に類を見ないスピードでの高齢化と、高齢者への富の集中という二つの軸があると分析。寿命が延びれば生涯に必要となる資金も増加し、高齢顧客のお金に関する悩みは従来よりも増大しています。一方で、加齢に伴う認知機能の低下には個人差が大きく、長寿化によってこの問題がより顕著になっているという認識も示されました。
同社では、自社だけでの対応には限界があるとの認識から、様々な連携の必要性を感じています。その一例として、日本を代表する研究教育機関である慶応大学と連携し、実務経験と学術的な知見を融合させて解決のヒントを見出そうとしています。また、社内では2017年に高齢顧客を専門に担当するチームを設置し、販売目標を設けず、高齢顧客に寄り添ったコミュニケーションを通じて真のニーズを把握することを使命としているそうです。こうした金融機関の積極的な取り組みは、高齢化社会における金融包摂を推進する上で、非常に心強い動きだと言えるでしょう。
このシンポジウムの内容は、SNSでも大きな反響を呼びました。特に「資産寿命」という言葉や、認知症による金融被害のリスクに対するコメントが多く見受けられ、「長生きリスクを改めて考えさせられた」「金融機関だけでなく、家族間での備えも必要だ」といった声が上がっていました。また、金融機関が販売目標を持たずに高齢顧客専門チームを設けるという野村證券の取り組みについても、「信頼できるサービスにつながる」として好意的に受け止められています。この議論が、多くの人々が自身の老後と資産形成について真剣に考えるきっかけになることを期待したいものです。
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