2019年6月24日、大日本印刷株式会社と株式会社hontoは、運営する書籍通販・電子書籍ストア「honto」における販売実績に基づき、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」をテーマや背景に持つ小説のランキングを発表しました。この興味深い調査で栄えある1位に輝いたのは、作家の吉田修一氏による人気作『続・横道世之介』です。東京オリンピックの熱狂の中で、主人公たちが巻き起こすささやかな奇跡を描いたこの作品が、多くの読者の心を捉えたと言えるでしょう。
2019年1月から5月までの販売冊数データから選ばれた上位作品の傾向を見てみると、単なるスポーツの祭典を描くだけでなく、五輪という世界的イベントを機に変貌していく日本社会の姿を深く掘り下げた物語が多くを占めています。これは、単にイベントそのものへの期待だけでなく、その後に訪れる2020年以降の日本の未来、すなわち「アフター・オリンピック」に対する読者の強い関心の表れではないでしょうか。
特に、ランキング上位に入った作品は、現在の日本の世相を鋭く切り取っています。例えば、2位の『東京の子』では、五輪開催に向けて外国人労働者や居住者が増加する社会情勢が物語の背景の一つとして扱われていました。グローバル化が進む東京という都市の「今」を感じさせるテーマが、読者に強く響いたのでしょう。また、5位には元経済企画庁長官で作家でもあった故・堺屋太一氏の著作『団塊の後・三度目の日本』がランクインしています。同氏の鋭い社会洞察に基づいた作品が上位に食い込んでいることから、読者が五輪を「社会の転換点」として捉え、その未来を真剣に考えようとしていることがわかります。
五輪小説ランキングから見える「もう一つの東京」
このランキングの発表は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上でも大きな反響を呼びました。「東京オリンピック」「五輪小説」といったキーワードとともに、多くのユーザーが話題の作品について意見を交わしていました。特に1位の『続・横道世之介』については、「世之介が東京五輪をどう迎えるのか知りたい」「あの温かい世界観の中に熱狂の東京がどう溶け込んでいるのか気になる」といった期待の声が多く見受けられました。この作品は、主人公のキャラクター性と社会的な大イベントという対比の妙が、読者の好奇心を刺激していると言えるでしょう。
私自身の意見としては、このランキングが示すのは、読者がスポーツエンターテインメントとしての五輪小説ではなく、「社会派」としての小説を求めている、という事実に他なりません。経済や人口構造の変化、国際化の進展など、五輪を契機に顕在化する社会のひずみや光を、フィクションという形で追体験したいという欲求があるのでしょう。ランキング上位の傾向は、単にオリンピックの成功を願うのではなく、その裏側にある日本の構造的な問題や多様化する社会に目を向けたいという、読者の健全な知的好奇心を強く反映しているのではないでしょうか。こうした「もう一つの東京」を描く小説群こそ、2020年以降の日本の羅針盤となり得るのかもしれません。
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