2019年6月24日、製造業の現場では「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」の活用が急速に進展し、生産効率の大幅な向上が期待されています。しかし、従来は外部ネットワークから切り離されていた工場の制御システムがインターネットに接続されるようになったことで、避けて通れない大きな課題が浮上してきました。それは、「サイバー攻撃」のリスク増大です。あらゆる“モノ”がネットにつながる現代において、工場などの基幹的な制御システムに対するセキュリティ対策は、他の分野に比べて遅れがちであることが指摘されていました。
このような状況を背景に、製造現場の安全を守るためのセキュリティ対策を強化した製品やサービスが、相次いで市場に投入されています。とくに、センサーなどのIoTデバイスが大量に稼働する工場においては、データをクラウドに送らず、その現場で処理を完結させる「エッジコンピューティング」という概念への注目が高まっています。これは、通信の遅延を抑え、リアルタイム性が求められる製造現場において非常に重要な技術といえるでしょう。このエッジコンピューティング環境に対応しつつ、サイバー対策にも配慮した専用のサーバーが登場しました。それが、米ストラタステクノロジー日本法人が同年6月に発売した「ストラタス ztC エッジ 110i」なのです。
このサーバーは、一部が故障しても稼働し続ける「無停止型サーバー」であることが大きな特長で、その信頼性の高さから主に工場の制御システムへの適用が想定されています。また、性能面でも大幅な進化を遂げており、演算を担うコアの数は既存製品よりも2個多い6個へと増強されました。さらに、記憶装置であるSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の容量は、なんと従来の4倍となる2テラ(テラは1兆)バイトにまで拡張されています。これにより、画像分析を行うAI(人工知能)を組み込んでも十分な性能を確保できるようになり、AIを活用した製品の品質検査や、生産設備の「予防保全」への応用が格段にしやすくなると期待されています。予防保全とは、故障が発生する前に兆候を検知し、メンテナンスを行うことで、設備停止のリスクを最小限に抑える取り組みを指します。
処理性能やストレージの強化に加え、同製品はサイバーセキュリティ対策にも非常に力を入れています。具体的には、サーバーと通信を行う利用者、データ、そしてソフトウェアの種類を指定する機能を新たに追加しました。また、サーバーの基盤ソフトである「ファームウェア」の改ざんを未然に防ぐ仕組みも盛り込まれています。これらの対策により、不正な通信を介したサイバー攻撃を受けにくい構造になっているのです。私見ですが、製造業の生命線ともいえる生産ラインを止めないためには、「無停止」という信頼性と、外部脅威から守る「セキュリティ」は、まさに両輪の必要不可欠な要素であるといえます。
セキュリティ専門企業による制御システム対策サービスが続々登場
高度なセキュリティ対策の導入を支援するサービスも、専門企業から提供が開始されています。野村総合研究所(NRI)のグループ企業であるサイバーセキュリティ専門会社、NRIセキュアテクノロジーズ(東京・千代田)は、工場の制御システム向けのサイバー対策導入サービスを展開しています。このサービスでは、イスラエルのスキャダフェンス社が開発したソフトウェアを活用し、工場内の制御システム用ネットワークを常時監視する仕組みを構築するとのことです。
具体的には、工場内の制御システムや生産設備の通信データをリアルタイムで収集し、専用ソフトでその内容を分かりやすく可視化しつつ、詳細に分析します。このシステムの要となるのがAIで、あらかじめ「正常な状態」での通信の特徴を学習させておきます。これにより、サイバー攻撃などによる「異常な通信」が発生した場合にそれを瞬時に検知し、顧客企業のシステム担当者へ通知することが可能になります。スキャダフェンス社のソフトは、すでに欧州の自動車メーカーや電機メーカーの工場で多くの採用実績があるものの、その高度な機能を使いこなすためには、事前にセキュリティ専門家による実態調査や、ITシステムの適切な構築が求められます。NRIセキュアは、まさにこの複雑なシステム構築作業などを担当し、導入を支援する重要な役割を担っているのです。
さらに、日立製作所も、工場に対するサイバー攻撃による事業停止のリスクを評価し、事業継続のために必要なサイバー対策を助言するサービスを2019年6月11日から提供開始しました。同社独自の診断ツールを用いることで、顧客工場のセキュリティ水準を正確に把握することができます。その診断結果に基づいてリスクを明確に可視化し、現状の課題を洗い出すというアプローチです。このサービスには、日立が自社工場で実際に適用して培った、貴重なノウハウが応用されている点が非常に注目されます。
日立は、工場の制御システムが今やIoT機器の一種となっている点に着目し、制御システム特有のリスクを徹底的に洗い出しています。たとえば、制御システムは稼働が不安定になることを懸念して、一般的なウイルス対策ソフトを導入しにくいといった特有の課題があります。このような特性を持つ製造現場のシステムに対して、的確なリスク評価と対策の助言を行う専門サービスの登場は、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を影で支える非常に心強い動きといえるでしょう。
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