2019年は、「環境」「社会」「企業統治」への配慮を意味するESG投資が、これまでのニッチな領域から一気に主流へと飛躍する記念すべき年となるでしょう。投資家や企業経営者は、もはやESG問題を無視することが、かえって大きなコストやリスクを生むという現実に直面し始めています。この新しい潮流は、単なる社会貢献活動ではなく、企業の存続と成長に直結するリスク管理の新たな手段として注目を集めているのです。
この変化の大きな兆候は、2019年2月に米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズが実施した実験的な取り組みに見て取れます。同社は、持続可能な事業に特化した資金調達を目的とする「グリーンボンド(環境債)」を、米国の通信企業として初めて10億ドル(約1070億円)規模で発行しました。通常、環境保護対策を推進する金融商品は手間がかかり、財務的な追加コストが発生しがちですが、驚くべきことに、ベライゾンのケースでは全く逆の現象が起こったのです。
結果として、10億ドルのグリーンボンドには投資家の需要が殺到し、募集額の8倍もの申し込みが集まりました。これは、ベライゾンがこれまでに起債した社債の中でも最も人気を集めた案件となったのです。引受を行った米ゴールドマン・サックスの担当者によると、調達コストは「ブラウンボンド(通常の社債)より若干安かった」といいます。これは単なる幸運な偶然かもしれませんが、もう1社の引受会社であるバンクオブアメリカ・メリルリンチの担当者は「今後もっと多くの発行体がグリーンボンド市場を利用するだろう」と、市場の明確な変化を予測しています。
📚ESGを主流へ押し上げる3つの要因と高まる規制リスク
このESGを巡る大きな潮流には、主に3つの要因が拍車をかけています。一つ目は、ESGを評価・測定するための会計監査制度が急速に改善していることです。現在、ESG基準は国際的な団体であるGSIAが試算する31兆ドル規模(ただしJPモルガンは真のESG投資は3兆ドルと見解が分かれています)といったように、その総額を測ることさえ難しいほど乱立しています。しかし、このデータの整備が進んでいない状況こそが、法律、会計、データ、格付け関連の企業にとって新たなビジネスチャンスを生み出しているといえるでしょう。監査制度の改善は、ESGへの取り組みを外部から追跡しやすくし、結果的に多くの投資家や発行体が関与せざるを得ない状況を生み出しています。
二つ目の要因は、企業に対する監視の目が厳しくなる中で、ESGを無視することに伴うコストが、これを受け入れるコストを上回るという認識が、経営幹部の間で広がり始めていることです。ESG運動は、当初はスウェーデンの年金基金のような、社会や環境にプラスの変化をもたらしたいと考える「慈善家」的な一部の投資家が主導していました。彼らの影響力は健在で、特に1980年代から2000年代に生まれたミレニアル世代は、金銭的なリターンだけでなく、ESGのような課題解決も目指す「インパクト投資」の考え方を強く受け入れている傾向があります。
しかし、現在ESG業界の成長を真に駆動しているのは、企業の評判や世間全体に対する被害を避けたいと考える、より大きなグループの経営者や投資家です。これは、ESGがもはや大義ある活動にとどまらず、企業や投資のリスク管理の手段として位置づけられ始めていることを意味します。この意識の変化の背景には、2018年のソーシャルメディア上での「#MeToo」運動のような「炎上」が企業にもたらす爆発的な被害を知らしめたことや、新たなアクティビスト(物言う株主)集団がESG問題についてキャンペーンを展開していることも挙げられます。
三つ目の、そして最も重要な要素は、ESGが取り組む課題が、政治や規制関連のリスクと密接に結びつき始めていることです。最近では30以上もの中央銀行が、銀行規制において環境要因を考慮すると宣言しています。さらに、欧州の規制当局は、企業だけでなく、それらの企業に資金を提供する投資家にも厳しい環境規制を敷き始めています。この潮流は、企業の取締役会や投資委員会に対し、ESG関連の社内ルールの策定と管理を義務付けざるを得ない状況を生み出します。
特に企業にとって望ましくないのは、規制が炭素排出量と結びつくような事態です。このような場合、一部の企業資産や投資家のポートフォリオの価値が大きく毀損する恐れもあります。米債券運用大手ピムコで米国中核戦略の最高投資責任者を務めるスコット・マザー氏も、「ESGを切り口にした商品の提案を求める顧客の依頼が劇的に増加している」と述べており、顧客は必ずしもポートフォリオを組みたいわけではなくても、評価基準を含めた情報を知りたがっているといいます。これは、リスクを回避するためにESGの情報を求める動きが主流になっている証拠でしょう。
💡倫理かリスク管理か?ESG成長の真の原動力
ESGがリスク管理へと軸足を移していることは、一部の純粋なESG主義者からすれば、市場が単に倫理観をアピールしているだけだと皮肉めいた批判を生むかもしれません。しかし、歴史が示すように、社会の多数派が、傍観しているリスクが関与するリスク(およびコスト)よりも大きくなったと感じた時にこそ、革命は起きるものです。ESGは今、まさにこの転換点に達したと考えることができるでしょう。
このESG投資の劇的な伸びは、環境保護を訴える改革派にとって「ぬか喜び」では終わらないはずです。そして投資家は、もう一つの歴史の教訓を心に留める必要があります。それは、革命が起きる時には、それまで予想もしなかった価値観の変化が生じ、偶然の勝者と敗者を生み出すということです。2019年はベライゾンが意外な勝ち馬に乗ることができましたが、他の企業が同じ幸運に恵まれる保証はありません。いずれにせよ、ESGはもはや経営者にとって避けて通ることのできない、必須の課題となっているのです。

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