2019年6月現在、アメリカ合衆国政府による強力な制裁措置を受け、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)との取引を、米欧の主要な半導体メーカーが次々と停止している状況は、世界的な半導体市場に大きな波紋を広げています。これは単なる一企業の取引停止に留まらず、年間約21兆円という世界市場の約5割を占める巨大な中国半導体市場の行方を左右しかねない重大な局面だと捉えるべきでしょう。取引を停止した各社からは、苦渋に満ちた声が聞かれており、その背景には、アメリカの強硬策が自社の中国市場開拓戦略を阻害し、さらに将来的には現地企業の技術力向上を不意に後押ししてしまうのではないかという、拭い切れない懸念が存在しているのです。
例えば、2019年5月下旬から6月1日まで台湾の台北で開催されたアジア最大級のIT見本市「台北国際電脳展」(コンピューテックス台北)では、米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のリサ・スー最高経営責任者(CEO)が、ファーウェイを「素晴らしい製品を開発する顧客」と評し、「早期の解決を願う」と述べ、取引再開への未練を隠していませんでした。同様に、米クアルコムやイギリスのアーム・ホールディングスといった半導体産業の主要企業の経営幹部たちも、この状況が一刻も早く解消されることを強く望む姿勢を強調しています。SNS上でも、この一連の動きは「米中間の貿易戦争が技術覇権争いにまで発展した象徴だ」と大きな反響を呼んでおり、「中国が独自の技術開発を加速させるきっかけになるのではないか」という指摘も多く見受けられます。
巨大市場開拓戦略への逆風と中国の技術的「自立」への動き
台湾の業界関係者の分析によると、これらの米欧半導体大手3社は、2016年から2018年にかけて、中国国内で現地企業との合弁会社を設立し、巨大な中国市場を開拓するための布石を着々と打っていました。彼らにとって、ファーウェイをはじめとする現地の有力顧客との取引規制が厳しくなることは、まさにこれまでの戦略に逆風が吹くことを意味します。中国のインターネット業界では、以前から当局の監視規制により米グーグルなどが遮断され、騰訊控股(テンセント)のSNSが国内で圧倒的な地位を築いた前例があります。半導体分野においても、現在はまだ海外技術への依存度が高いものの、これと同様の「技術の国産化」が起きるのではないかという懸念が、業界全体で急速に高まっているのです。
特に、半導体設計に必要な回路図の作成やシミュレーションなどを自動で行うためのソフトウェアであるEDA(Electronic Design Automation:半導体設計自動化)の分野では、米シノプシスなどが市場を寡占していますが、同社もファーウェイとの取引を停止しました。これに対し、台湾の半導体研究者は「海外からの技術供与が止まることは、中期的には中国が代替となる技術を自力で開発することを促す可能性がある」と警鐘を鳴らしています。中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は、アメリカの規制に対して「自力更生」、すなわち自国の力で経済・技術を発展させるという姿勢を明確に示しており、着々と技術導入と人材確保を進めています。
例えば、半導体メモリー大手の台湾・南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)の李培瑛(リー・ペイイン)総経理(社長)は、2019年5月に「(中国勢の)人材の引き抜きが非常に激しく、待遇を引き上げて対抗しているが、かなわない」と、深刻な状況を明らかにしました。半導体は、中国が掲げる製造強国戦略「中国製造2025」においても絶対に譲れない重要分野であり、国を挙げての支援と投資が行われています。この米国の制裁は、短期的に見れば中国を追い詰めているように見えますが、長期的な視点では、中国に技術的な「自立」を強いることで、かえって中国半導体産業の技術革新を加速させ、最終的に自国に不利な結果をもたらす可能性を秘めている、と私は考えます。世界中の半導体業界は、一見劣勢に見える中国の今後の動きを、極めて慎重に注視していく必要があるでしょう。

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