2019年6月25日、アメリカの製薬大手であるアッヴィが、アイルランドの同業大手アラガンを買収すると発表しました。買収額はなんと約630億ドル、日本円にして約6兆7000億円にも上る、2019年における製薬業界で最大規模のM&A(合併・買収)となります。この巨額な取引は、業界地図を大きく塗り替える可能性を秘めており、今後の動向に大きな注目が集まるでしょう。
アッヴィが目指すのは、アラガンが得意としている美容や眼科といった高い成長が見込める分野を自社のポートフォリオに取り込むことです。アラガンといえば、美容医療で世界的に有名なシワ取り治療薬「ボトックス」を擁することで知られています。現在、アッヴィは主力製品の特許切れリスクを抱えており、今回の買収は、その懸念を払拭し、新たな収益の柱を確立するための戦略的な一手と推察されます。買収後も、本社は引き続きアメリカに置かれる方針です。
今回の買収は、現金とアッヴィの株式を交換する方法を組み合わせて実施されます。具体的には、アラガンの株価を、買収発表前日の6月24日の終値から45パーセントも上回る1株あたり188.24ドルと評価したのです。この高いプレミアムを設定したことからも、アッヴィがいかにアラガンの獲得を重視していたかが伺えます。買収手続きは2020年初頭に完了する予定とのことです。
両社が合併することで、年間の合計売上高は約480億ドル規模に達する見込みです。単純な規模の拡大だけでなく、研究開発(R&D)やマーケティングといった分野で共通化を図り、大幅なコスト削減効果を生み出すことを目論んでいると考えられます。製薬業界では、新薬開発のコストが増大しており、大規模な統合による効率化は、グローバル競争を勝ち抜くための不可欠な戦略となっていると言えるでしょう。
この大型買収のニュースは、SNSでも大きな反響を呼んでいます。特に、アラガンの過去の買収劇を知る人々からは、その経緯に言及する声が多く見受けられました。「またアラガンの名前が出てきた!」「今回はタックスインバージョン回避でうまくいくのか?」といったコメントが飛び交い、過去の事例を振り返るユーザーも少なくありませんでした。
過去に頓挫した「タックスインバージョン」を巡る買収劇
アラガンは、アメリカに比べて法人税率が低いアイルランドに本社を置いています。過去には、この「租税優遇」を巡る買収計画が持ち上がった経緯があります。2015年、アッヴィと同じく米国の製薬大手であるファイザーが、総額1600億ドルという巨額でアラガンを買収すると発表しました。この時の狙いは、買収後に本社をアイルランドに移すことで、大幅な節税効果を得るタックスインバージョン(租税地変換)にありました。ここでいうタックスインバージョンとは、企業が税率の低い国に本社を形式的に移転することで、税負担を軽減しようとする行為を指す専門用語です。
しかし、当時のアメリカ政府は、このような節税目的の買収に対して強い懸念を抱いていました。その結果、政府は翌2016年にタックスインバージョンに対する規制を強化し、ファイザーは税制面でのメリットが見込めなくなったことから、買収計画を断念せざるを得なくなりました。今回の買収では、アッヴィは本社を米国に維持することを明言しており、過去のファイザーのような租税地変更を目的としたものではないため、規制上の問題は生じない正当な成長戦略であると判断できるでしょう。この決断は、市場の信頼を得る上でも非常に重要だと感じられます。
今回のアッヴィによるアラガン買収は、製薬業界における競争の激化と、新薬パイプラインの確保という喫緊の課題を反映していると考えられます。主力製品への依存度が高い製薬会社にとって、アラガンのような成長分野に強みを持つ企業を取り込むことは、将来的なリスクを分散し、持続的な成長を実現するための最善の策となるに違いありません。この大型M&Aが、今後のグローバル製薬市場にどのような影響を与えていくのか、目が離せない状況が続くでしょう。

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