米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)が「予防的利下げ」を検討しているという観測が強まったことで、世界の株式市場で先高期待が急速に高まっています。予防的利下げとは、景気がまだ本格的に悪化していない段階で、先手を打って金利を引き下げる金融政策のことです。現在、米国株は史上最高値圏で推移しており、日本株も円高が進行しても底堅さを見せています。これは、米国の利下げによって世界的に株価が上昇するシナリオが投資家の間で支持されているためでしょう。しかし、過去の事例を振り返ると、景気が堅調な中での予防的利下げは、市場を過度に刺激し、後にバブル崩壊につながるほどの過熱を引き起こしてきた経緯があり、投資家は警戒感を高める必要があると考えられます。
例えば、2019年6月25日の東京市場では、円相場が一時1ドル=106円台まで上昇しましたが、通常であれば敬遠されがちな主力輸出関連銘柄が意外にも値を崩さず、日経平均株価は取引終了にかけて下げ幅を縮小しました。これは、FRBが利下げに踏み切るとの見通しが、米国発で世界中の株価を押し上げるという期待が市場の大きな下支えとなっているからです。同年6月19日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートの据え置きが決定されましたが、パウエル議長が今後の利下げを強く示唆する発言を行ったことで、S&P500種株価指数は翌20日に過去最高値を更新し、ダウ工業株30種平均も最高値に迫る勢いを見せているのです。
しかし、こうした楽観的なムードの裏側には、大きな落とし穴が潜んでいる可能性があり、みずほ総合研究所の長谷川克之氏も「予防的利下げは過度なリスクテーク、つまりリスクの高い投資行動を引き起こす恐れがある」と警鐘を鳴らしています。SMBC日興証券の圷正嗣チーフ株式ストラテジストによると、景気後退に陥っていないにもかかわらずFRBが利下げに踏み切ったのは、1990年以降で過去に2例しかありません。1回目は1995年7月で、これは急激な利上げの修正局面。そして2回目は1998年9月で、ロシア経済危機に対応し、市場リスクを抑制するための措置でした。興味深いことに、これら2つの局面ではいずれもニューヨーク・ダウの上昇が加速しています。
特に1998年の利下げは、「ITバブルの原因になった」と指摘されており、景気が順調に拡大している状況で金利を引き下げると、長期金利が低下し、株式のようなリスク資産への投資を必要以上に過熱させてしまうためと考えられます。FRBの思惑とは裏腹に、予防的利下げが市場に過剰な自信を与え、後に市場を直撃するバブルの種を蒔いてしまう可能性があるのです。現在の世界経済の状況を見てみると、国際通貨基金(IMF)は、2019年の世界の成長率を3.3%、2020年は3.6%に加速するという同年4月の見通しを維持しており、米国経済も2020年には1.9%成長を予測するなど、必ずしも景気後退が目前に迫っているわけではありません。
それにもかかわらず、市場の利下げ期待は加熱の一途を辿っています。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が提供する「Fedウォッチ」(投資家がFFレートの先行きをどう見ているかを示す指標)を見ると、2019年7月中の利下げ確率は100%に達しています。さらに、年末までで見た場合、利下げ幅を1回あたり0.25%と仮定すると、「3回以上」の利下げを予想する向きが全体の7割を超えており、中には合計で1%以上の利下げを予測する声も聞かれます。これは、景気後退局面での利下げペースに極めて近い水準であり、一時2%を下回った米国の長期金利と合わせて、「市場が利下げを強く織り込みすぎている」という見方がSMBC日興証券の圷氏を含め、多くの専門家から聞かれます。
日本株投資家が特に注意すべき点とSNSでの反響
こうした市場の過熱感は、日本株の投資家にとって特に注意すべきサインと言えるでしょう。米国のFFレート、ニューヨーク・ダウ、そして日経平均株価を重ねて分析すると、予防的利下げが行われた1995~1996年や1998年の株価急騰時、そしてITバブル崩壊時においては、日経平均の方が上げ幅も下げ幅も米株価指数より大きくなる傾向が見られます。実際、日経平均株価はITバブル時に付けた2万円台を、アベノミクス相場に入ってようやく回復するなど、米国の金融政策や株価の動きに大きく影響を受け、その振れ幅も大きくなる特性があるのです。
この「予防的利下げがバブルの予兆となる」というニュースに対して、SNS上では早くも様々な意見が飛び交っています。一部の投資家からは「金融緩和で株価が上がるなら、この波に乗るしかない」「バブルになるなら、崩壊する前に利益を確定すればいい」といった強気な声が見受けられます。一方で、「FRBが利下げをする時点で、景気の先行きを懸念している証拠ではないか」「ITバブルを経験した身としては、過度な楽観論は危険すぎる」といった慎重な意見や、「今回の利下げはトランポノミクス(トランプ政権による経済政策)への配慮も大きいのではないか」といった政治的要因を指摘する声もあり、市場の関心の高さが伺えます。
個人的な見解としては、予防的利下げが過去にバブルを引き起こしたという事実を踏まえれば、現在の市場の過熱感は非常に危険な状態にあると考えます。確かに、目前の株価上昇を逃すのは投資家にとって痛手かもしれませんが、この景気拡大局面が戦後最長を更新している今、FRBの判断は「長く続いた宴」の終焉を意識させるものかもしれません。投資家は、このバブルの可能性がある相場において、一時的な利益を追う「のるかそるか」の大勝負を迫られている状況ですが、リスク資産への過度な集中を避け、常に冷静な視点と柔軟な資金管理を心がけることが、最良の戦略ではないでしょうか。

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