2019年6月28日から29日にかけて大阪で開催されるG20サミット(20カ国・地域首脳会議)は、世界が抱える最も困難な課題の一つである「貿易摩擦」の緩和と、その中心にある「世界貿易機関(WTO)」の機能回復に焦点が当てられています。日本政府は、国際貿易の多角的調整役として発足したものの、近年、その役割が不全に陥っていると指摘されるWTOの大胆な改革を主要な議題として掲げました。これは、日本経済の基盤である自由貿易体制の秩序を再構築し、対立が深まるアメリカと中国を国際協調の枠組みにつなぎ留めたいという、極めて重要な狙いがあるためでしょう。
この改革案には、SNS上でも大きな反響が寄せられています。特に「#G20Osaka」「#WTO改革」といったハッシュタグのもとでは、「日本がこのタイミングで調整役として手を挙げるのは英断だ」「貿易戦争の緊張緩和につながることを切に願う」といった期待の声が多数見受けられます。一方で、「米中対立の根が深すぎる。生半可な改革でどうにかなるのか」という懐疑的な意見や、「結局、アメリカが離脱を示唆するレベルの抜本的な改革案でなければ意味がない」といった厳しいコメントも少なくありません。国際世論の関心は非常に高いと言えるでしょう。
日本が今回のサミットでWTO改革を強く推進する背景には、その組織が現在抱える深刻な問題があります。WTOは1995年に、モノやサービスの国際的な貿易自由化を促進し、貿易に関する紛争を解決するために設立された国際機関です。しかし、新興国の加盟が増加したことで、全加盟国の「全会一致」を原則とする意思決定方式がネックとなり、新たな貿易ルールの策定が極めて困難になってしまいました。さらに、貿易問題における紛争処理の機能も弱体化していると指摘されており、アメリカはこの機能不全を特に問題視しています。
具体的に、アメリカは中国などの国々が特定産業に対して行う「補助金」といった優遇策を不公正な貿易慣行と見なしており、WTOがこれに有効に対処できないことに強い不満を抱いています。アメリカは、もしWTOが抜本的な改革を実行できないのであれば、「離脱も辞さない」という強硬な姿勢を示しているのです。こうした状況を打破するため、日本やヨーロッパ連合(EU)は、WTOの各委員会の活動を活性化させることや、WTOに報告せずに自国の産業を優遇する国には「制裁を科す」といった実効性のある新たなルールの導入を提唱し、アメリカとの協調を図っています。日本は、このWTO改革の取り組みこそが、通商秩序から離れつつあるアメリカを多国間の枠組みに引き戻すための鍵であると判断しているのでしょう。
多国間協調への試練:キーワードを巡る米中の綱引き
この国際協調の試みは、しかしながら一筋縄ではいきません。例えば、2017年のドイツ・ハンブルクG20サミットで合意された「全ての不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘う」という、自由貿易体制を擁護する上で非常に重要な文言について、日本は今回の大阪サミットでは採用を断念せざるを得ませんでした。当初、日本はこの文言を盛り込むことを検討し、水面下ではアメリカ側も一時的に容認の姿勢を見せていたようです。しかし、その後ろに続く「正当な貿易防衛制度の役割を認識する」という文言に対して、中国が「アメリカによる関税の引き上げを正当化しかねない」と強く反発し、拒否した経緯があります。
米中間の貿易対立が激しさを増すにつれて、両国の姿勢は一層硬化しました。また、日本側も日米貿易交渉が進行中である最中に、この「反保護主義」の文言に固執してアメリカとの溝を深めることを避けたいという思惑が働いたと考えられます。そこで、日本は焦点を「反保護主義」ではなく、国際協調による「WTO改革」へと絞り込んだわけです。
それでもなお、道のりは険しいものがあります。サミットに先立つ2019年6月9日に茨城県つくば市で開かれたG20貿易相会合では、共同声明に盛り込む「WTO改革」という文言自体にすら、アメリカ側が注文をつけてきたのです。多くの先進国がその必要性を認めながらも抜本改革が進んでいない現状に鑑み、アメリカは「実際には進んでいないことについて、ただ必要性だけを記すことには反対だ」と抵抗を示しました。
しかし、最終的に貿易相会合では、メッセージが一切発信できないという最悪の事態は回避されました。交渉筋の分析によれば、米中双方に「G20の枠組みを完全に壊すことだけは避けたい」という意識が働いたためでしょう。アメリカは、本来出席予定だった米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が欠席する異例の事態でしたが、世耕弘成経済産業相が電話で説得を試みたり、中国側との懸命な調整に奔走したりするなど、日本の粘り強い外交努力が実を結びました。米中両国は特定の文言には反発しつつも、結果として少しずつ譲歩する姿勢を見せ、共同声明の採択にこぎ着けたのです。
直近の課題は、この貿易相会合と同様の協調的なメッセージを、いよいよ始まるG20サミットの場で首脳宣言として打ち出せるかにかかっています。しかし、本当に難しいのは、その合意の「後」だと言えるでしょう。もし、実効性のあるWTOのルール作りが滞るような事態になれば、国際協調に対するアメリカの信頼は再び失われるかもしれません。また、米中対立がさらに激化すれば、ルール作りのための交渉の場自体が停滞するおそれも拭えません。世界経済の安定という重責を担う調整役として、日本が負う責任は非常に重いと言えるでしょう。私は、日本政府が粘り強く多国間の利害を調整し、自由貿易体制の回復に尽力することを強く期待しています。
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