人気落語家の春風亭一之輔師匠が、自身の連載コラムで明かしたお正月の舞台裏が大きな話題を呼んでいます。噺家(はなしか)と呼ばれる落語家にとって、1年の中で最も多忙を極めるのがこの時期です。実は寄席の世界では、2020年01月20日までがお正月とされており、その締めくくりを前に一之輔師匠が明かしたリアルな日常に、親近感を覚える読者が続出しています。SNS上でも「伝統を守る大変さが伝わる」「爆笑した」といった声が溢れ、大反響を巻き起こしているのです。
噺家の一年は、元旦の早朝に「師匠の自宅へ年始の挨拶に伺う」という古くからの慣習で幕を開けます。この師匠や先輩を敬う縦社会のルールは、落語界において極めて重要な伝統儀礼とされてきました。しかし、2019年12月31日の大晦日の夜、自身の独演会を終えた一之輔師匠を待ち受けていたのは、この伝統が生み出す予想外のタイムスケジュールでした。三番弟子のいっ休さんから翌日の予定を尋ねられたことで、怒涛の元旦劇場の幕が上がります。
前座(ぜんざ)と呼ばれる、寄席の開演準備や楽屋働きを担う最下層の身分であるお弟子さんは、朝の7時30分には浅草演芸ホールに入らなければなりません。逆算すると、一之輔師匠の自宅へは早朝6時に来訪するという結論に至りました。テレビの紅白歌合戦では白組の優勝が決まり、夜中の1時30分を過ぎてようやく就寝した一之輔師匠夫妻。しかし、お弟子さんを迎えるために、翌朝は4時40分という異例の早起きを強いられることになります。
愛すべきお弟子さんとの攻防戦と伝統への本音
眠い目をこすりながら、奥様の全面協力のもとおせちや雑煮の準備を整えたものの、肝心のいっ休さんは6時を過ぎても現れません。ようやく到着したお弟子さんに小言を言いつつも、温かく新年を祝う師匠の姿からは、深い師弟愛がにじみ出ています。慌ただしく大師匠の家へと向かうお弟子さんを見送り、ようやく訪れた短い二度寝の時間。その後には再び別のお弟子さんたちを3人も迎える予定が控えており、目まぐるしい時間が続きます。
一之輔師匠はコラムの中で、紅白歌合戦の勝敗システムや、この過酷な新年の挨拶回りについて、ユーモアを交えて「やめたらどうか?」と本音を吐露しています。デジタル化が進み、効率性が重視される現代において、こうした泥臭くも人間味溢れる伝統を維持することは、並大抵の苦労ではないでしょう。それでも完全にやめてしまえば寂しいと感じる師匠の葛藤には、伝統芸能の灯を守り続ける当事者ならではの、深い矜持が隠されているように思えてなりません。
私たちは寄席の上品で面白い高座ばかりに目を奪われがちですが、その裏側にはこうした家族や師弟の強い絆と、凄まじいエネルギーが存在しています。面倒だと言いながらも、毎年お弟子さんのために雑煮を用意して待つ一之輔師匠の優しさに、心がじんわりと温かくなります。時代錯誤に見えるかもしれないシステムの中にこそ、落語という文化が現代まで愛され続けてきた本質的な魅力が詰まっているのではないでしょうか。
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