新幹線全盛期に忘れたくない「旅情」とは?作曲家・池辺晋一郎氏が語る、スピード社会で見落としがちな鉄道旅行の醍醐味とSNSの共感

現代社会において、新幹線は私たちの生活に欠かせないインフラとなっています。関西や金沢、新潟、仙台、山形など、日本全国を網羅する超高速列車は非常に便利です。日本の新幹線は、その圧倒的なスピードだけでなく、運行時刻の正確さでも世界から高く評価されています。まさに、几帳面な日本人の国民性をそのまま形にしたような存在であり、私たちが世界に誇るべき技術の結晶と言えるでしょう。

しかし、利便性を追求するあまり、私たちは大切な何かを失ってはいないでしょうか。作曲家の池辺晋一郎氏は、2020年1月10日のコラムの中で、新幹線の素晴らしさを認めつつも、急速に効率化していく移動のあり方に一石を投じています。この問題提起は、SNS上でも「移動がただの作業になっている」「たまには目的のない電車の旅がしたい」といった、現代人の心の叫びとも言える多くの共感を集めました。

池辺氏は幼少期を茨城県の水戸で過ごされ、長期休みのたびに常磐線の鈍行列車で東京の祖父母の家を訪ねていたそうです。鈍行列車とは、急行や特急のように主要な駅だけに止まるのではなく、すべての駅に停車する普通列車のことを指します。水戸から上野まで約3時間、鉄道が大好きだった池辺氏は、道中にある全ての駅名を暗記していたという微笑ましいエピソードも明かされています。

当時は急ぐ理由もなかったため、各駅停車でのんびりと移動することが当たり前の光景でした。ところが現在では、ほとんどの人が特急や新幹線を利用するようになっています。あえて鈍行列車を選ぶのは、「ゆっくりとした旅を楽しもう」と特別な意識を持っている場合に限られるようになりました。このような変化は、日本の経済が急速に発展した戦後の「高度経済成長期」を境に始まっています。

ビジネスにおける国内出張では、もはや「旅」という風情ある概念すら消え去り、単なる移動時間と化しているのが現状です。さらに将来、磁力で車体を浮上させて超高速で走る「リニア中央新幹線」に代表される、リニアモーター鉄道の時代が到来すれば、国内の移動において景色や風情を味わう「旅情」という言葉そのものが、過去の遺物になってしまうかもしれません。

技術の進歩は確かに素晴らしいものですが、一方で味気なさを感じてしまうのも事実です。便利さと引き換えに、私たちは目的地へ早く着くことばかりを求め、移動そのものを楽しむ心の余裕を失っているように思えます。タイムパフォーマンス、いわゆる「タイパ」を最優先する現代人にとって、この池辺氏の指摘は耳が痛くも、深く考えさせられるテーマではないでしょうか。

池辺氏は現在、新幹線に乗る際には必ず窓の外の景色を眺めるようにしているそうです。それはご自身が海や川などの水辺の風景を好まれているからだけではありません。日本全国をハイスピードで移動する日々の中でも、心の一角で「旅情」という温かみのある言葉を大切に守り続けたいという、切なる願いが込められているからなのです。

効率化を追い求める現代だからこそ、あえて立ち止まり、車窓を流れる美しい景色に目を留める時間が必要です。目的地に早く到着することだけが価値ではありません。移動中の何気ない景色や、そこを通過する時間にこそ、人生を豊かにする本当の「旅の魅力」が隠されているはずです。次の休みには、スマートフォンの画面を閉じ、ゆっくりと車窓を眺める旅に出かけてみませんか。

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