野坂昭如『エロ事師たち』の魅力とは?哲学者・野矢茂樹が紐解く、無頼の裏に潜むおセンチな感受性とSNSの反響

高校生という多感な時期に出会った一冊の小説が、その後の人生に深い衝撃を与えることがあります。哲学者である野矢茂樹先生にとって、まさにそんな運命の出会いとなった作品が、野坂昭如氏の代表作『エロ事師たち』です。当時は「面白い」という言葉だけでは到底表現しきれないほど、この世界観に深く没頭したといいます。それから長い歳月を経て、大人の視点で再びページをめくった際にも、作品が持つ独特の輝きは全く色褪せていませんでした。

物語の主人公は、三十代半ばの「スブやん」という男性です。彼は、有り余る富と尽きることのない性への欲望を抱えた男たちを相手に、いわゆる裏社会のビジネスを営んでいます。一見すると退廃的でスキャンダラスな物語ですが、いまなお多くの読者を惹きつけてやみません。SNS上でも「人間のドロドロした部分を描いているのに、なぜか美しくて引き込まれる」「ただの官能小説ではなく、文学としての格調高さを感じる」といった絶賛の声が数多く寄せられています。

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猥雑さと純粋さが同居する唯一無二の文体

野矢先生が高校生ながらに圧倒された理由の筆頭として、その唯一無二の文体が挙げられます。物語のベースとなる地の文(登場人物の会話以外の説明や描写の文章)に、濃厚な大阪弁の語りが混ざり合うことで、まるでとぐろを巻くような強烈なリズムが生まれるのです。この独特な文章の連なりは、猥雑(世俗的で汚らわしく入り乱れている様子)でありながらも、どこか澄んだ響きを内包しています。滑稽でありながら同時に切なさを感じさせる表現力は見事です。

主人公たちが手掛けるのは、非合法の成人向け映画制作や売春の斡旋、乱交パーティーの企画など、まさに法律の網の目をかいくぐるような危うい仕事ばかりです。彼らは裏社会でこそこそと動き回りながらも、その実、妙に真剣で醒めた視線を持っています。このアングラな世界での徹底したこだわりと仕事ぶりが細部までリアルに描写されており、それが若き日の野矢先生にとって、これまでにない新鮮な驚きとして映ったのは間違いありません。

無頼な背中に隠された人間味あふれる感傷

しかし、この小説の真の魔力は、物語の端々から漂う「感傷的な香り」にあると野矢先生は指摘します。例えば、狂乱のパーティーが催されている傍らで、スブやんが一人静かに月の光を浴びながら自身の衰えを嘆くシーンがあります。あえて卑俗な現実に美しい「月の光」を対比させる演出に、胸を締め付けられるような切なさが宿るのです。こうした描写からは、著者の野坂氏が持つ、繊細でセンチメンタルな素顔が垣間見えるのではないでしょうか。

ネットメディアの視点から見ても、本作は単なるアングラ小説の枠に収まらない、人間の本質を突いた名作だと確信します。著者は無頼(社会の型にはまらず、無法な振る舞いをすること)を気取りながらも、その実、誰よりも傷つきやすく純粋な心を持っていたはずです。私たちは彼の突き放したようなポーズの裏に、自分と同じ寂しさや感受性を見出すからこそ、この物語に愛おしさを感じるのでしょう。時代を超えて魂を揺さぶる、まさに至高の快作です。

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