世界最高峰の研究環境を誇るアメリカの科学技術界に、今までにない緊張が走っています。全米科学財団、通称「NSF」が、基礎研究の安全保障に関する極めて重要な報告書を2020年1月13日に公表しました。これまで多種多様な国々から優秀な人材を迎え入れ、自由な研究を保障することで発展してきた米国ですが、ここへ来て危機感を強めています。その背景にあるのは、近年目覚ましいスピードで科学技術力を伸ばしている中国の存在です。
今回の報告書が大きな注目を集める中、SNS上でも「オープンな研究環境と国家機密のバランスは本当に難しい」「優秀な中国人研究者を排除しすぎれば、かえって米国の開発力が落ちるのではないか」といった、多様な意見が飛び交い大反響を呼んでいます。基礎研究とは、特定の応用や製品化を直接の目的とせず、未知の現象の解明や科学的理論の構築を目指す、あらゆる技術の「根っこ」となる研究のことです。この根底が揺るがされる事態に、多くの人が関心を寄せています。
実際に米国の大学や研究機関では、中国人研究者の活発な動きや、中国企業からの巨額の研究資金提供に対して、警戒の目が向けられるようになりました。こうした状況に対応するため、NSFは2019年にトップクラスの科学者たちで構成されるエリート専門家集団「ジェイソン」へ、リスク分析と対策をまとめた報告書の作成を委託していたのです。オープンな環境が生み出す莫大な利益を守りつつ、国家の安全をどう担保するかという難題への挑戦が始まっています。
この報告書では、これまでのアメリカを支えてきた透明で開かれた研究環境の重要性を改めて主張しています。その一方で、米国の国益を脅かすような海外の不穏な動きにはしっかりと目を光らせ、バランスの取れた柔軟な管理運営体制を構築すべきだと提案しました。先端技術が国家の覇権を左右する現代において、大学や政府機関がリスクマネジメントを徹底することは、今や避けて通れない重要課題といえるでしょう。
筆者は、この問題は決して米国だけの対岸の火事ではないと考えます。自由な学問の発展と国家安全保障の強化という二律背反の課題に対して、完全な正解を導き出すのは容易ではありません。しかし、過度な排除はイノベーションを停滞させるリスクを孕んでいます。日本も含めた国際社会全体が、健全な協力関係と厳格な防衛策をいかに共存させていくか、知恵を絞るべき局面が訪れているのではないでしょうか。今後の動向から目が離せません。
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