世界中で情報セキュリティの重要性が高まる中、絶対に安全な通信網として期待されているのが「量子インターネット」です。欧米や中国では国家的なプロジェクトとして莫大な投資が行われ、その実現に向けた研究開発が大規模に進められています。一方で、日本も材料開発などで優位性を持つものの、量子分野を担う研究者の絶対数が少ないという課題も指摘されています。この革新的な技術の動向と、日本が国際競争で生き残るための道筋について、量子インターネット研究の第一人者である横浜国立大学の小坂英男教授に、2019年6月26日時点の状況を詳しく伺いました。
量子インターネットとは、光子などの「量子」が持つ特殊な性質を利用して、複数の地点を結びつける次世代の通信ネットワークのことです。量子には、誰かが観測しようとするとその状態が壊れてしまうという特性があります。そのため、通信途中で**盗聴(情報を盗み聞くこと)**が行われても、情報自体を読み取ることができないという、極めて高い安全性を実現できると期待されています。これが、国や銀行の機密情報、あるいはDNAなどの重要な個人情報のやり取りに不可欠な、絶対に安全な通信を可能にする最大の利点といえるでしょう。
すでに、量子を使った1対1の通信技術は実用化されていますが、通信距離を伸ばし、多地点を結ぶ量子インターネットを構築するには、途中で量子の状態を壊さずに何度も中継するための技術が必須となります。量子は非常にデリケートで状態が保ちにくいため、この中継器の実現が大きなカギを握っています。近年、特に注目を集めているのが、ダイヤモンドを活用した中継器の材料開発です。量子インターネットは、将来的に量子コンピューターや量子センサーが普及した際、それらの高性能な機器が扱う情報をそのままやり取りするための重要なインフラにも発展する見込みです。
世界をリードする海外勢の圧倒的な開発規模
現在の研究開発の勢いを見ると、特に目覚ましい進展を見せているのが中国でしょう。国を挙げて研究への投資額や実験規模が非常に大きく、1対1の量子通信で2000kmもの長距離をつないだり、量子通信専用の人工衛星を複数機打ち上げたりといった、驚異的な成果を次々と上げています。その圧倒的な規模感とスピードには、目を見張るものがあります。もちろん、米国や欧州でも研究は非常に活発です。
特に世界的な量子研究のハブとなっているオランダでは、2020年にも複数の拠点を量子中継器でつなぎ、実用的な量子インターネットの実験を行う計画があると報じられています。米国も詳細な情報は多くは公開されていませんが、この分野での優位性を確保するため、今後も中国に負けじと、さらに力を入れてくることは間違いないと予想されます。この熾烈な国際競争の中で、日本は独自の強みを生かしつつ、どのように立ち向かっていくのかが問われています。
日本の強みと、世界に立ち向かうための課題
日本の量子インターネット開発における強みは、まさに中継器の材料開発、特にダイヤモンドを使った高性能な材料技術にあります。この分野では世界に劣らない、優れた技術レベルを保有しているのです。しかし、小坂教授は、この優れた材料を実際に量子インターネットのシステムとしてどのように応用し、活用していくかを研究する研究者や企業が不足している点を、現在の最大の課題として指摘しています。私たちは産学連携を進め、2022年を目標に量子インターネットに必要な要素技術を確立することを目指しています、と小坂教授は語っています。
技術レベルは世界と肩を並べられるにもかかわらず、量子分野の人材不足という根本的な問題があるため、日本が世界的な競争で勝ち抜くのは非常に厳しい状況にあるというのが私の見解です。若手の研究者や技術者を育成するには長い年月が必要ですが、未来の通信インフラを握るこの重要な分野で、今すぐにでも人材育成に本腰を入れるべきでしょう。私自身、量子インターネットが実現すれば、私たちの社会の安全性と利便性が飛躍的に向上すると考えていますから、この危機感を多くの人に共有していただきたいと強く感じています。
🔑専門家も指摘する、産学連携と教育の重要性
量子分野の技術は、人工知能(AI)と並び、社会を根本的に変革する潜在能力を持つと期待されています。しかし、その根幹となる理論や概念が非常に複雑で難解なため、専門外の人には理解しにくいという側面があります。この状況を打開するためには、時間がかかったとしても、大学だけでなく学生時代からの教育に力を入れることが不可欠です。また、技術革新を担う若者が大学で存分に研究に取り組めるよう、環境を整える工夫も求められています。
さらに、日本全体でこの量子技術の研究を盛り上げていくためには、大学で優秀な人材を育てた後の受け皿、つまりその能力を社会で生かせる環境の整備も欠かせません。現状、海外に比べて、量子技術の研究開発を専門に行う大企業やスタートアップ企業(ベンチャー企業)が非常に少ないのが実情です。このため、せっかく量子分野を学んだ学生が、就職を機にその分野から離れてしまうという事態も多く発生しています。このような人材流出を防ぎ、日本の技術力を維持・向上させるためには、大学と企業が密接に協力し合う産学連携が不可避であると、専門家も強く訴えているのです。
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