2019年央、日本の産業素材・燃料の国内市場は、「内需」が牽引役としてどこまで力を発揮できるかに注目が集まっています。中国経済の減速により、自動車部品などの輸出型製造業で用いられる外需関連の素材需要は伸び悩む傾向にありますが、国内の建設や生活必需品に関連する内需分野は底堅く推移しているのです。特にセメントなど一部の素材では、価格上昇の勢いを追い風に、さらなる値上げの動きを模索する兆候が見られています。この記事では、内需の強さが目立つ主要産業素材の最新の価格動向と今後の見通しについて、編集者の視点から深く掘り下げて解説いたしましょう。
セメント業界では、販売価格のさらなる改善に向けた強い意欲が示されています。あるセメント大手の幹部は、「この勢いに乗って、2019年7月~9月期の販売価格を一段と引き上げたい」と意気込みを語っています。この背景には、セメントを主原料とする生コンクリート(生コン)の取引価格が上昇したことがあります。生コンクリートとは、セメント、砂利、砂などを水と混ぜて作られる、建設現場で用いられる流動性のあるコンクリートのことです。2019年6月には、東京地区で生コンの取引価格が1立方メートルあたり300円程度、およそ2%上昇しました。生コンメーカーの収益が改善すれば、原材料であるセメントの値上げを受け入れやすくなるというポジティブな連鎖が期待されているわけです。
セメントメーカーは、原材料や物流コストの高騰を理由に、2017年末に2018年4月出荷分からの値上げ(1トンあたり1,000円、約9%)を打ち出していました。2019年3月までに大半の顧客が値上げに応じたものの、実際に浸透した値上げ幅は300円から500円ほどに留まっています。そのため、セメント大手各社は2019年度中に、まだ値上げを受け入れていない顧客との交渉をまとめるとともに、更なる価格アップに向けて注力していく方針です。生コン価格の上昇は、この取り組みの強力な後押しになるでしょう。 このように、内需の強さが価格交渉の追い風となる状況は、日本の景気を支える重要なファクターだと筆者は考えています。
2020年夏の東京五輪関連の施設や選手村、ホテルなどの建設におけるセメント需要は、ほぼピークを越えたと見られていますが、首都圏や地方の中心都市での再開発ビル建設は依然として堅調に推移しています。さらに、北陸新幹線の延伸工事などの大規模プロジェクトも進行中です。これにより、五輪特需が終了した後もセメント出荷量が急激に落ち込む可能性は低いでしょう。セメントメーカーとしては、「値上げを浸透させる絶好の機会は今しかない」という思惑が強く働いているのです。
鋼材:H形鋼は高値維持も、需給緩和で調整の動き
一方、ビルの梁や柱などに使用される鋼材であるH形鋼(えいちがたこう)は、東京の市中価格で1トン9万円前後という高値圏を維持しています。しかし、その価格は現在、頭打ちの状況です。昨年後半に見られたような需要が供給を上回る需給逼迫感は後退し、市中での荷動きが鈍くなっているためでしょう。建設プロジェクト自体は存在するものの、ハイテンションボルト(強力な締結力を持ち、主に鉄骨構造の接合部に使われる高力ボルト)など一部の建築資材の不足によって鉄骨造の工期が遅延し、H形鋼などの出荷も滞っています。その結果、市中の在庫は需給が均衡する目安とされる20万トンを上回り、22万トンにまで上昇しました。 この在庫水準の上昇が、価格の上値の重さにつながっています。
H形鋼の大手メーカーである東京製鉄は、市中の需給状況を考慮し、2019年7月契約分の出荷価格を1トンあたり8万5,000円、約4%引き下げると発表しました。しかしながら、都内の形鋼問屋からは「他のメーカーが東京製鉄の値下げに追随していないうえ、これから例年の最需要期である秋に向けて需給が引き締まる見込みです。現時点で市中相場が大きく崩れるとは考えにくい」との見方が聞かれています。とはいえ、H形鋼はセメントなどに比べてここ数年間で価格上昇が急激だったため、一旦価格調整局面に入る可能性も否定できないでしょう。
印刷用紙は引き続きタイトな需給で強含み
内需関連では、印刷用紙も引き続き高値が続いています。国内の製紙会社が原材料費や物流コストの上昇を理由に実施した値上げが浸透し、市場に受け入れられました。さらに、ペーパーレス化などによる需要減少に伴い、製紙各社が供給を絞っているため、在庫水準は低いままで推移しています。2019年6月以降も、主要な工場で設備の点検が予定されており、タイトな在庫状況は継続する見通しです。この需給バランスの引き締まりが、印刷用紙の価格を押し上げ、高値を維持させているのです。
この一連の動きに対し、SNSでは「建設資材の高騰はアベノミクスの効果か、それとも五輪特需の副作用か」「鉄骨の納期遅延で現場が回らないのは困る」といった建設業界からの切実な声とともに、「内需が強いのは良いことだが、インフラコストの増加は最終的に国民負担にならないか」といった懸念の声も散見されました。私は、足元の内需の堅調さは日本経済の底力を示すものと評価しつつも、一部資材の価格調整や納期遅延は、今後の建設投資に悪影響を及ぼすリスクがあるため、注視していく必要があると考えます。主要な素材の値動きと7月以降の見通しは、以下の表にまとめた通りです。
> 【主要素材の値動きと見通し(2019年5月・6月実績と7月以降の予測)】 > * H形鋼:5月→横ばい、6月→横ばい、7月以降→横ばい。コメント:不用要期で出荷停滞、在庫高めで上値が重い状況です。 > * セメント:5月→横ばい、6月→横ばい、7月以降→上昇。コメント:生コンの値上がりにより、東京地区で価格上昇の機運が高まっています。 > * 印刷用紙:5月→横ばい、6月→横ばい、7月以降→横ばい。コメント:需給は引き続きタイトな状態で、強含みを維持するでしょう。 > * 熱延鋼板:5月→横ばい、6月→横ばい、7月以降→下落。コメント:輸入材増加と一部需要停滞で在庫が高水準となり、弱含みです。 > * 軽油:5月→下落、6月→横ばい、7月以降→下落。コメント:原油相場の上昇に加え、海外市況の堅調さが価格を支える傾向にあります。 > * 塩化ビニール樹脂:5月→横ばい、6月→横ばい、7月以降→横ばい。コメント:建築中心に内需が底堅く、輸出増加の傾向が続くと見られます。
このように、2019年6月26日時点の情報に基づけば、内需に支えられた素材と、外需の停滞や需給緩和の影響を受ける素材との間で、市況の二極化が進んでいると言えるでしょう。特にセメントの再値上げの動きは、内需の強さを象徴する出来事であり、今後の市場を占ううえで極めて重要なシグナルだと言えるでしょう。
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