近年、私たちにとって身近な段ボールの需要が非常に好調に推移しており、その原材料となる段ボール原紙の価格が、高い水準で安定している状況が注目されています。この状況について、段ボール業界のリーディングカンパニーであるレンゴーの長谷川一郎副社長執行役員に、2019年6月26日時点での最新の市場動向や見通しを詳しく伺いました。
段ボールは、青果物、飲料、加工食品など、景気の変動にあまり左右されない分野で多く利用されています。長谷川氏によると、2019年4月から6月までの平均を見ても、日本国内の足元の需要は堅調を維持しているということです。しかしながら、世界に目を向けると、米中貿易摩擦の影響や中国経済の減速が明確に現れ始めています。特に、段ボール箱の素材となる「ライナー」や「中しん」といった段ボール原紙の2018年の生産量は前年比で10%減、段ボールの消費量も6%減と、長谷川氏が知る限りでは過去に例を見ないほどの大幅な減少を記録しました。それでも、レンゴーの中国工場では、今のところ原紙の減産には至っていないということです。
このような状況の中、製紙各社は物流費の高騰などを理由に、2018年秋から原紙やシートの値上げを打ち出してきました。レンゴーも同年9月末に値上げを決定し、それに伴う段ボール箱の値上げ交渉は、2019年4月に概ね決着した模様です。長谷川氏は、顧客である食品メーカーなども働き方改革や物流コストの上昇といった同様の課題を抱えており、「みんなで適正な価格に持っていこうという機運がある」と認識しているそうです。
原材料「古紙」価格は安値圏の背景と国内リサイクルへの決意
国内景気が堅調であることと対照的に、段ボール原紙の主原料となる古紙の相場は、現在、安値圏での推移が続いています。この大きな要因は、世界の景気減速、そして何より中国向け輸出に引っ張られる形での価格下落です。長谷川氏の説明では、米中貿易摩擦が本格化する以前から、中国国内での生産は人件費や生産コストの面で割高になっており、よりコストの低い東南アジアへの生産シフトが継続していることが影響しているようです。しかし、レンゴーとしては、古紙の購入価格をここ3か月は変えておらず、「日本国内で40年以上かけて培ってきたリサイクルシステムを何が何でも守らなければいけない」という強い決意を表明しています。
市場では、この古紙価格の安値について「製紙会社は原料を安く手に入れられるから儲かるのでは?」という見方もあるかもしれませんが、長谷川氏のコメントから、国内の安定したリサイクルシステムの維持という、企業の社会的責任の側面を重視していることがうかがえます。古紙を扱う事業者にとっても安定した価格は重要であり、安易な値下げは国内リサイクル網の崩壊につながりかねないため、非常に重要な判断だと言えるでしょう。
EC需要の確かな伸びと中国の動向、今後の需給見通し
今後の見通しとして、段ボール箱の表裏に使うライナー(中心値96円)と、波状の構造を作り強度を出す中しん(同72円)の価格は、当面は横ばいで推移すると長谷川氏は見ています。段ボールの世界需要は現在2500億平方メートルですが、数年後には2700億平方メートルに増加すると予測されており、特にEC(電子商取引)向けは、その成長を牽引する最大の要因でしょう。日本のEC向け段ボールの伸びは統計上では6%程度ですが、長谷川氏は実際の伸びはこれよりも2〜3%高いのではないかとの見方を示しており、少子高齢化が進む中でも世帯数は減っておらず、日用品などの個別配送の品目が増加していることが需要拡大の背景にあるということです。私も、このECの成長は、今後も止まることはないと考えています。消費者のライフスタイルの変化が、段ボール業界に確かな恩恵をもたらしていることは間違いありません。
一方、中国は2020年までに古紙の輸入をゼロにするという目標を掲げていますが、長谷川氏は「物理的に必要なものは買わざるを得ない」として、実際には難しいだろうと指摘しています。また、コスト的に難しくなった中国での生産から、周辺の東南アジアへの生産シフトを進めざるを得ない端境期(はざかいき)にあるという認識です。国内では、製紙各社が設備増強を進めていますが、その設備が本格的に稼働し始めるのは2020年以降となるため、それまでは段ボール原紙の需給がタイト(ひっ迫)な状態が続くだろうという見通しを示しました。
レンゴーの長谷川一郎副社長執行役員は、1976年(昭和51年)に住友商事へ入社後、紙パルプ部門を経て、2002年3月にレンゴーの顧問に就任し、2013年4月からは代表取締役兼副社長執行役員を務めている、業界の重鎮です。
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