海外企業買収、いわゆる海外M&Aを成功に導くためには、買収後の組織統治、特に「間接統治」のあり方が極めて重要であると、マーサー ジャパンのパートナーである竹田年朗氏が指摘しています。単に会社を買うだけでなく、その後の経営をいかにコントロールし、買収の目的を達成するのかが成否を分けるポイントとなるでしょう。竹田氏によると、間接統治を成功させるには、大きく分けて三つの柱があります。それは、(1)統制の「ハードウエア」3項目の確立、(2)「ソフトウエア」(人事三権)3項目の確立、そして(3)買い手の計画を頓挫させかねない重要な細部の「底上げ(緊急対策)」です。
これらの施策は、買収契約が法的に発効する時点である「クロージング」までに行うものと、クロージング後、速やかに着手するものに大別されます。特に、情報収集や関係構築が必要な項目はクロージングを待ってから実施することになるため、その実行タイミングを明確に分けることが統治の準備において肝要となります。
買収先経営を律する「ハードウエア」の確立
まず、統制の「ハードウエア」として重要なのが、買収先の経営トップが勝手な行動を取らないようにするための仕組みづくりです。一つ目は、「権限・ルールの適切な設定」と「上司・部下間のリポート(指示命令)関係の確立」です。これにより、買い手側の意向や戦略が具体的に浸透する道筋がつくられます。二つ目は、「会議体の整備」です。これを通じて、買収先経営トップや主要幹部の力量、そして事業に対する意欲を定期的に確認できる環境を整えることができます。
そして三つ目のポイントは、「オペレーションの可視化」です。これは、事業運営状況を透明化し、もし都合の悪い事実や不正行為があったとしても、いずれは必ず露見すると認識させることで、経営層を牽制する効果があります。この可視化の仕組みと、後述する人事における「任免権」の確立は、買い手側にとっての「二大抑止力」となります。この抑止力がなければ、上司と部下の関係性だけでは買収先経営トップに対峙しても、買い手側は「丸腰」となってしまい、相手は何も恐れることがない状態になってしまうでしょう。
買収先幹部を動かす「人事三権(ソフトウエア)」の重要性
次に、統制の「ソフトウエア」は、任免権、評価権、報酬決定権という「人事三権」のことです。中でも極めて重要となるのが「任免権」の準備です。これは、万が一、買収先の経営トップに辞めてもらいたい状況になった際に、実際にそのように対処できるように準備しておくことを指します。任免権の確立の第一歩は、買収先幹部全員に対する「アセスメント」、つまり人材評価を実施し、どんな人材がいるのか、あるいはいないのかという情報を整備することから始まります。
通常、買収直後の段階では、買収先の経営トップに辞められてしまうと事業運営が立ち行かなくなるケースが多いため、まずは本人が「悪いが辞める」と言いにくくするための「リテンション(引き留め)策」を保険として講じます。この引き留め策が効いている間に、その経営トップがいなくなっても事業が継続できるよう、後継者育成や体制構築を画策する必要があるのです。この準備を怠ると、「辞められたら困る」という状況が永遠に続き、本来雇い主であるはずの買い手側が、言いたいことも言えなくなってしまうという、主客転倒の事態に陥りかねません。
SNSでの反響と編集者の見解
この記事の内容は、M&A経験者や経営層の間で大きな反響を呼んでいます。特に「任免権の準備の重要性」については、「結局、最終的な意思決定権を握れないといつまでも対等な交渉になってしまう」「買収先のトップが退任を言い出しにくい環境を作るという視点がリアリティがある」といった意見が多く寄せられました。また、「二大抑止力」としての可視化と任免権のコンビネーションは、極めて現実的で有効な戦略だと評価されています。
私見ですが、竹田氏の指摘は、まさに海外M&Aにおける**「人間関係」と「システム」のバランス**を突いた本質的なアドバイスであると考えます。特に、買収直後という不安定な時期だからこそ、理屈をつけながらも問答無用で「可視化の仕組み」を整備し、「経営者・幹部のアセスメント」を実施することは、絶対に封印してはならない「抑止力」でしょう。海外の経営者すべてが悪人ではないものの、人間は常に様子を伺い、状況に応じて考えを変えるものであるため、買い手側は少なくとも「甘く見られない」存在であることが、統治成功の絶対条件となるでしょう。
買収後のコントロール確立のための検討項目を見ると、ハードウエアの「権限・ルール」や「会議体」は契約発効前、つまりクロージング前には準備が完了している必要があります。一方で、ソフトウエアの「任免(アセスメント)」は契約発効後速やかに着手、「オペレーションの可視化」は契約発効後3カ月で第一期を完成させるなど、時間軸を意識した計画的な実行が求められるものです。

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