2019年6月26日付の日本経済新聞MJ(流通新聞)にて報じられた第52回小売業調査の結果は、日本の小売企業がアジア市場の成長に並々ならぬ熱意を注いでいる実態を鮮明に示しています。人口増加と経済の勢いが著しいアジアは、いまや各社にとって欠かせない「成長市場」であり、この地での基盤構築に注力している様子がうかがえます。特に、これまでのアジア展開の主役であったコンビニエンスストアに加え、家電量販店や衣料品専門店といった多様な業態の進出が相次いでいる点は注目すべきでしょう。
調査では、全回答企業のうち13.1%にあたる57社が海外で店舗を展開していると答えました。業態別に見ると、専門店が32社と圧倒的多数を占め、売上高1,000億円以上の大手企業が32社含まれており、日本を代表する小売企業が海外進出を牽引していることが分かります。そして、海外展開している企業のうち、今後さらに出店を積極化させたいと考えている企業は31.6%に上りましたが、この積極姿勢は百貨店やスーパーでは見られず、専門店からの回答が際立っていたという分析結果が出ています。
海外事業が全体の売上高に占める比率は「1%未満」が26.3%で最多となり、17年度に最も多かった「1~5%」の24.6%を上回りました。このことは、多くの企業にとって海外事業がまだ初期段階にあることを示唆していますが、21年度には2社が「40~50%未満」になると予測しており、将来的には海外売上高を事業の柱に据える企業も出てくる可能性を秘めていると言えるでしょう。また、海外事業で営業利益、つまり事業の「本業の儲け」が出ている企業は31.6%にとどまり、17年度から利益率はやや低下したものの、「赤字だが1~2年後に黒字化できそう」との前向きな回答も22.8%と増加しています。これは、短期的な利益よりも、将来の成長のための「種まき」に重きを置いている企業が多い表れではないでしょうか。
このアジア攻勢の象徴的な動きとして、ドラッグストア最大手であるマツモトキヨシホールディングス(HD)は2018年10月に台湾へ初めての店舗を出店いたしました。国内の免税売上高が全体の13%と好調に推移していることから、現地のお客様や訪日客に人気のプライベートブランド(PB)商品などを展開することで、台湾でも確実に顧客を獲得できると判断したのでしょう。PBとは「プライベートブランド」の略で、小売店が独自に企画・開発した商品のことを指し、価格競争力やブランド戦略の要となる製品群です。
さらに、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルHDも、2019年2月にタイのバンコクで「ドンドンドンキ」1号店を開業しました。この店舗は日本流の陳列や商品構成を徹底しており、日本品質のサービスがどのように受け入れられるか、その成否に注目が集まっています。同社はさらに台湾や香港への出店準備も進めており、アジアにおける勢力図を大きく塗り替える存在となりそうです。また、家電量販店のノジマは2019年2月にシンガポールの小売り大手であるコーツ・アジアを買収し、シンガポール、マレーシア、インドネシアでの事業を一気に手中に収めるなど、<span>M&A(合併・買収)</span>による進出も活発化しています。M&Aは、時間とコストをかけて一から事業を立ち上げるよりも、既存の販路やノウハウを即座に獲得できる点が最大のメリットです。
アジア展開を加速させる鍵は「現地との連携」
今後の海外出店意向について「積極化する」と答えた企業の割合は、前回調査から2.1ポイント増の31.6%に達しており、海外展開に意欲的な企業が着実に増加していることが分かります。出店予定の地域としては、中国が52.0%と最も多く、次いで台湾が40.0%で2位に浮上しました。台湾は17年度から9.6ポイントも増加し、これまで2位だった米国を抜き去っており、中国、タイ(28%)、インドネシア、シンガポール、フィリピン、韓国といったアジアの国々が、日本の小売企業にとって最も重要なフロンティアとなっていることは明らかでしょう。
しかし、海外での事業展開は、単に店舗を出すだけで成功するほど甘くはありません。そのため、海外事業で今後検討している取り組みとして、42.2%の企業が「現地企業とのアライアンス」を挙げました。アライアンスとは「提携」や「協力」を意味し、現地企業と手を組むことで、市場の慣習や商習慣、法規制などの壁を乗り越えようという戦略的判断が見て取れます。これに続いて「現地の事情に明るい人材獲得」(20.3%)、「商品配送網の整備」(12.5%)と続き、ローカライズ、つまりその土地に合わせた事業展開の重要性を多くの企業が認識しているのでしょう。現地の人々のニーズを的確に捉え、迅速かつ効率的に商品やサービスを提供できる体制の構築が、アジア市場で成功するための必須条件と言えるはずです。
この調査結果を受けて、SNS上では「日本の商品がアジアでも買えるようになるのは嬉しい」「現地のドンキの品揃えが気になる」「マツキヨのPBは現地でも売れると思う」といった期待の声が多数見受けられます。一方で、「海外展開はリスクも大きい」「利益を出すのが難しそう」といった慎重な意見も散見され、大きな反響を呼んでいる状況です。私見ではありますが、国内市場の縮小が避けられない状況において、経済成長著しいアジア市場への進出は、日本の小売業界の未来を左右する極めて重要な経営戦略であると確信しています。今後も各社が現地との連携を深めながら、どのように日本発の価値をアジアに提供していくのか、その動向から目が離せません。
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