2019年6月26日、中部地方の大学が、学生の起業を強力に後押しするために、国公立や私立といった既存の垣根を越えた連携に踏み出しているというニュースが届きました。共同でのビジネスコンテスト開催や、ベンチャーキャピタルとの連携による投資ファンド設立など、その活動は多岐にわたります。少子化の波を受け、大学の運営環境が厳しさを増すなか、スタートアップの育成をテコにして、大学全体の競争力を底上げしようという、まさに背水の陣ともいえる取り組みが進行しているのです。
その熱気を示す事例として、6月上旬に名古屋市内のホールで開かれた、名古屋大学などが2017年から毎年実施している「ビジネスコンテスト」が挙げられます。約200人の聴衆を前に、選ばれた10人の学生が、自らのビジネスアイデアを熱弁しました。「蚊を寄せ付けない衣類で世界の感染症をなくしたい」「『こんにゃく石』を使って新しい免震工法を実現します」といった具体的なアイデアは、聴衆を大いに魅了したことでしょう。このコンテストは、学生の起業に直結させることを目指しており、過去に上位入賞したチームの多くが実際に起業を果たしています。
躍進する地域連携:名大独占から広がりへ
このビジネスコンテストは、開始当初は上位を名大生がほぼ独占していましたが、3年目となる今回は大きな変化が見られました。今年のベスト5に入ったのは、名大からはわずか1チームに留まり、名古屋工業大学や岐阜大学のチームも名を連ねています。審査委員長を務めた名大の佐宗章弘副学長は、「目標としてきた東海地区の大学全体への広がりが出てきた」と、この変化を前向きに評価されています。上位に入賞すると、起業のための資金援助や活動スペースの提供といった具体的な支援が得られるため、学生たちの起業へのモチベーションも一層高まるに違いありません。
名古屋大学は、自らも大学間の連携を積極的に広げています。2015年から始めたスタートアップ支援策には、すでに名工大、豊橋技術科学大、岐阜大、三重大といった国公立大学が参加していましたが、2019年6月からは私立の名城大学も加わり、連携の輪をさらに強固なものとしています。大学発のスタートアップを核として新たな産業を創出し、中部経済全体の底上げを図りたいという大きな狙いがあるのです。こうした地域全体での「団結」の動きは、競争激化の中で生き残りをかける大学にとって、非常に重要な戦略であると考えられます。
危機感が生んだ結束:資金確保と競争力向上の視点
この連携の背景には、各大学が直面する厳しい競争環境があります。名大学術研究・産学官連携推進本部の河野廉教授は、「東京大学や京都大学に教員や発明の数で劣ってしまうため、地域で団結することで競争力を高めたい」と、その危機感を明確に示しています。名大は旧帝国大学の中でも最も規模が小さく、国から配分される運営費交付金(教職員の給与や研究費などに充てられる資金)は、東大や京大に大きく後れを取っている状況です。この交付金の多寡が国立大学の序列を固定化してしまうことへの、名大関係者の危機感は非常に強いといえるでしょう。
一方、私立大学も、教職員の給与や物件費を賄うための私学助成金が2018年度まで2年連続で減少しており、決して楽観できる状況ではありません。このような状況下で、各大学は外部資金の獲得を活発化させており、学生や教員の起業から生まれる新たな財源への期待が高まっています。これは、大学経営の安定化と、研究成果の社会還元という、一石二鳥の効果を狙う賢明な戦略といえるでしょう。
産学連携の成功モデル:投資マネーとノウハウの好循環
大学は、活路を民間企業との連携にも広げています。名大など5大学は、独立系ベンチャーキャピタル(VC)の日本ベンチャーキャピタルと手を組み、5大学発のスタートアップに特化したファンドを設立されました。岡谷鋼機やDMG森精機、金融機関など17社から、なんと合計25億円もの資金を集めているのです。さらに、2018年にはビヨンドネクストベンチャーズと組んで2号ファンドも立ち上げ、同社の協力で経営者候補の派遣なども積極的に進めています。これは、スタートアップが持つ先端技術やアイデアを、投資マネーと経営ノウハウの両面から支援し、素早く収益へとつなげる好循環を生み出そうという、非常に戦略的な産学連携モデルであります。
名古屋工業大学産学官金連携機構の野原かほり特任専門職員は、「研究の社会的な価値を産業界の人に理解してもらえるよう橋渡しするのが大学の役割」だと、大学の使命を強調されています。中部地方で広がるこの起業支援の輪は、地域経済の活性化はもちろん、未来を担う若手人材の育成にとっても極めて重要であり、私も大いに期待しています。大学間競争に乗り遅れまいと、この連携への参加を検討している大学は他にも多く、中部地方の高等教育機関の結束は今後ますます強固になるのではないでしょうか。
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