高齢化や後継者不足が深刻化する中山間地域において、稲作の持続可能性を高めるための切り札として、ICT(情報通信技術)を活用した「スマート農業」の実証事業が、中国地方有数の米どころである岡山県内で本格的に始動いたしました。年々増す担い手不足や、コメの価格下落といった厳しい状況を打開し、高品質なコメ作りと省力化を両立するモデルの構築に、大きな期待が寄せられています。
国の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」に基づき、岡山県内の真庭市と赤磐市の二ヶ所で、それぞれ異なるアプローチによる実証実験が展開されています。このプロジェクトは全国から寄せられた252事業の応募の中から、中山間地域の稲作分野では全国で12件、中国地方では岡山県の2件を含む計5件のみが採択されたもので、その重要性が伺えます。コンソーシアムには、それぞれの市や県、岡山大学に加え、農機大手のクボタグループ販社である中四国クボタなどが参画し、産学官連携で取り組みを進めている状況です。
2019年6月4日、県北部の真庭市では、GPS(全地球測位システム)を搭載した自動運転の田植え機が登場しました。このシステムにより、田植え機は自動で直進方向を維持・補正できるため、オペレーターは手放しでの作業が可能になるのです。試乗された太田昇市長は、その簡便さに「若い人が参入しやすくなる、楽で楽しい、そして収益性の高い農業を真庭から広げられるでしょう」と、将来への希望を語っています。
また、6月13日には、県中南部の赤磐市の農場において、同じくGPS機能を備えた無人運転のトラクターと有人運転のトラクターが、まるでシンクロするかのように並走する様子が披露されました。関係者からは、SFドラマ『下町ロケット』で描かれたような未来の光景が現実になったと、驚きと歓喜の声が上がっています。無人トラクターはタブレット端末から作動状況を確認できるため、将来的には夜間の農作業も可能になり、作業効率の大幅な向上につながると見込まれます。
スマート農業導入が目指す具体的な目標と効果
両地域の実証事業では、労働負担の軽減と収量の増加という、農業が抱える二大課題の同時解決を目指しています。具体的には、スマートフォンを用いた水管理システムの導入や、農薬・肥料の散布にドローン(小型無人機)を活用する取り組みが進められています。さらに、秋の収穫時には、コンバインに搭載された自動計測機能を利用して、コメの食味や収量を一枚の田んぼごとにデータ化していく計画です。
真庭市では、労働時間の26パーセント短縮と、収量を13パーセント向上させることを目標としています。さらに、高額な農機を有効活用し、稼働日数を増やすため、30キロメートル以上離れた標高530メートルの遠隔農地でも、農機をシェアリング(共有)できる体制を構築しようとしています。一方、赤磐市では収量を20パーセント増やし、収量あたりの生産コストを10パーセント削減することに加え、高品質米の指標となるタンパク質含有率の低減にも取り組み、ブランド価値の向上を目指している状況です。
赤磐市の実証農場を運営する農業法人、ファーム安井の安井正社長は、「ドローンやコンバインで食味値の計測データを一枚の田んぼごとに蓄積することで、土壌や栽培方法を細かく分析し、高品質なコメの『作り分け』が容易になる」と、データに基づく精密農業のメリットを力強く語っています。従来の経験と勘に頼る農業から、ICTを活用したデータ駆動型農業への転換は、コメの品質安定化と収益性の向上に不可欠な視点でしょう。
日本の農業が直面する課題と普及への道のり
スマート農業への関心は高まっており、中四国クボタの林繁雄社長によると、GPS機能付き田植え機は、2019年1月から5月にかけて、中型・大型機種の販売実績が中四国全体で想定の4割以上を占めるなど、農家の皆様の期待の大きさが伺えます。しかし、導入コストが本格普及のネックになることも指摘されています。例えば、実証事業で使われているクボタ製のGPS機能付きトラクターは、標準タイプに比べて約300万円高い約1,200万円とされており、初期投資の負担が大きいのが現状です。
また、無人農機とはいえ、現場での監視は依然として必要であり、ドローン操作やシステム運用を担う人材の確保も急務です。農林水産省の農林業センサスが2015年に示したデータによりますと、岡山県の農業就業人口は5年間で18.6パーセントも減少し、65歳以上の割合が76.2パーセントに達しており、高齢化・担い手不足は深刻です。真庭市の農事組合法人寄江原でも、組合員73人のうち最若手が40代という実情があり、「米価の下落も追い打ちをかけている」と難波秀臣・副代表幹事は窮状を訴えています。
岡山県農林水産総合センターの吉川二郎センター長が述べているように、「省力化は農業における永遠のテーマ」でございます。この実証事業を通じて、現場の具体的な課題を見つけ出し、一つひとつ解決していくことが、将来的な農業のあり方を決定づけるでしょう。私は、スマート農業が単にコスト削減や効率化に留まらず、若者にとって魅力的な「かっこいい職業」へと農業のイメージを一新させ、地域社会の活性化にもつながることを強く期待しています。
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