2019年6月下旬、大手芸能事務所である吉本興業に所属するお笑い芸人が、特殊詐欺グループが関与するパーティーに参加していたことが明らかになり、社会に大きな衝撃を与えました。特に、人気コンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之さん(49歳)ら13名が、約5年前に総額40億円を詐取したとされる詐欺グループが開催したパーティーに出席していたという事実は、看過できない問題でしょう。彼らは「反社会的勢力(はんしゃかいせいりょく)」だと認識していなかったと釈明していますが、報酬として金銭のやり取りがあったことで、世間からは厳しい批判が集中しています。
この問題を受けて、SNSでは「知らなかったでは済まされない」「企業としての管理体制が甘すぎる」「なぜ同じ過ちを繰り返すのか」といった厳しい意見が多く見受けられました。特に、吉本興業は2011年8月に島田紳助さんと暴力団関係者との交際が発覚し、これを機に島田さんが芸能界を引退するという事態を経験しています。その教訓から、同社は所属タレントに対し、反社会的勢力との接触を避けるための研修を年に2回実施してきたにもかかわらず、今回の問題を防げなかったことは、企業が反社会的勢力との関係を遮断することの難しさ、そして取り組みの浸透不足を痛感させられます。
吉本興業の初動対応についても、多くの専門家から疑問の声が上がりました。今回の騒動は6月初旬に週刊誌の報道で発覚しました。事務所は参加を仲介したとされるお笑い芸人1名との契約を6月4日付で解除しましたが、他の参加者については十分な調査を行わず、厳重注意にとどめるという判断を下しています。これに対し、危機管理広報コンサルティング会社「エイレックス」の江良俊郎社長は、「反社会的勢力から金銭を受け取ったかどうかの事実は、企業にとって非常に深刻な事態です。速やかに徹底した調査を実施し、記者会見で結果を公にすべきだったでしょう」と指摘しています。
江良社長の分析の通り、事務所側の認識や判断が甘かったことが、結果的に問題の長期化と拡大を招いたと言えるでしょう。コンプライアンス(法令遵守)が求められる現代において、企業が反社会的勢力との関係を断ち切るという強い姿勢を示すことが、いかに重要であるかを改めて浮き彫りにした事例です。反社会的勢力とは、暴力団や総会屋など、社会の秩序や安全に脅威を与える集団や個人を指し、企業活動においては一切の関係を排除することが社会的な責務とされています。
この種の事案は、芸能界だけの問題に留まりません。例えば、西武信用金庫(東京)は、反社会的勢力の疑いがある取引先への融資を続けた結果、2019年5月に金融庁から業務改善命令を受け、経営トップの理事長を含む3名が辞任に追い込まれました。また、2018年6月には、仮想通貨交換業者6社に対しても、反社会的勢力との取引を許していたことなどを理由に業務改善命令が出されています。このように、反社チェックを怠ったことによる企業の負の側面は後を絶ちません。
警視庁幹部は、背景には「暴力団のフロント企業を含め、その実態を見抜くのが難しくなっている」という側面があると指摘しています。フロント企業とは、暴力団などの組織が、その実態を隠して合法的な企業活動を装う形で設立・運営する会社のことで、その見分けが非常に困難になっているというのです。特に、成長著しい新興企業に紛れ込み、通常の企業活動を装って資金を集める犯罪グループも少なくないため、企業側には取引相手の選別について、より一層の注意が求められています。
企業が取るべき反社会的勢力排除のための具体的な指針
政府は、企業が反社会的勢力との関係を遮断するための具体的な対応策を、2007年に指針としてまとめていますが、残念ながら、その浸透は十分とは言えません。日本弁護士連合会(日弁連)が2018年度に実施した調査によれば、企業の半数がこの指針の存在自体を知らなかったとされています。反社会的勢力の排除に詳しい手打寛規弁護士は、「現代社会では法令遵守の気運が非常に高まっており、反社会的勢力と関わるリスクは増大しています。この問題に真摯に向き合うには、経営トップが組織全体に対して、関係を断ち切るという強い意思を明確に示さなければ、組織全体の意識として根付くことはないでしょう」と警鐘を鳴らしています。
具体的に企業が取り組むべき事項としては、政府の指針に基づき、リスクマネジメントの一環として以下のような対策が挙げられます。まず、経営トップが社内に向け、反社会的勢力との関係を遮断するという確固たる意思表示を徹底することです。次に、具体的なマニュアルを作成し、全社員を対象とした研修を定期的に行う必要があります。また、平時から警察や弁護士などの外部の専門家と連携体制を構築し、不測の事態に備えておくべきでしょう。
加えて、反社会的勢力に関する情報をデータベース化し、取引前の厳密なチェック体制を構築することも欠かせません。もし、知らずに取引してしまった場合でも、その事実が判明した際には速やかに関係を解消し、不当な要求があった場合には、あらゆる法的対抗手段を講じるという断固とした姿勢を示すことが肝要です。今回の吉本興業の事例は、社会的な信用を失うリスクの大きさを改めて示すものとなりました。全ての企業は、コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化し、反社会的勢力との関係を徹底的に排除する体制作りが急務であると強く申し上げたいと思います。
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