2019年6月27日、日本の自動車産業における次世代モビリティサービスの構図が一変する大きな動きがありました。トヨタ自動車とソフトバンクが共同で主導する自動運転などの移動サービス企業連合に、新たにマツダ、スズキをはじめとする自動車大手5社が加わる方針を固めたのです。この参画により、同連合に参加する自動車メーカーは合計8社となり、国内の四輪車新車販売シェアで実に8割弱を占める巨大な勢力となります。
今回、出資を決定したのは、トヨタとソフトバンクが2018年に設立したモネ・テクノロジーズ(MONET Technologies)です。新たに加わるのは、マツダ、スズキのほか、SUBARU(スバル)、ダイハツ工業、いすゞ自動車の5社で、それぞれの出資比率は数パーセント程度と見られています。これにより、国内の移動サービス基盤を確立し、さらには海外展開をも視野に入れた強固な体制が構築されることでしょう。
MONETは、「MaaS(マース)」と呼ばれる次世代の移動サービスを開発し、特に地方におけるオンデマンド交通などの提供を目指しています。MaaSとは、「Mobility as a Service」の略で、様々な交通手段をITで連携させ、一つのサービスとして提供する概念のことを指します。利用者の利便性を飛躍的に高める可能性を秘めた分野なのです。
すでに2019年3月には、ホンダと日野自動車がそれぞれ2億円超を出資し、約10パーセントの株式を取得していましたが、今回、電気自動車(EV)分野などでトヨタと連携を深める5社が加わったことで、MONETは名実ともに日本のモビリティを牽引する存在となりました。現状、MONETの株式はソフトバンクが40パーセント強、トヨタが40パーセント弱を保有しています。
従来の車の開発や販売においては激しい競争を繰り広げてきた自動車メーカー各社ですが、MaaSという新たな領域においては、協調の道を選んだと言えます。MONET陣営に加わるメーカーの2018年の新車販売台数は、登録車と軽自動車を合わせて約404万台に上り、市場シェアの77パーセントを占めることになります。MONETは、自動運転車を活用したサービス開発を加速させるため、国内メーカーに幅広く参加を呼びかけてきた経緯があります。
巨大連合の目的:CASE時代におけるデータ戦略
自動車業界は今、「CASE」(ケース)と呼ばれる技術革新の波に直面しています。CASEとは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語で、産業構造を根底から変えるトレンドです。この変革期において、競争の鍵を握るのは、自動運転の精度向上に不可欠な膨大な走行データの収集と分析能力なのです。
世界ではすでに、米国のIT大手によるデータ収集が急ピッチで進んでいます。例えば、米アルファベット(グーグルの親会社)傘下のウェイモは、2018年末までに自動運転による公道走行データを、地球を約400周する分も蓄積していると言われています。MONETに自動車メーカーがデータを持ち寄って協力することで、米IT大手などに対抗しうるサービスを磨き上げることが可能になるでしょう。PwCコンサルティングの予測では、MaaSの市場規模は、2030年までに米国、欧州、中国だけでも合計150兆円規模に達する見込みであり、この巨大市場での覇権を目指す動きだと理解できます。
国内の四輪車メーカーで、今回のMONET連合に加わらないのは、日産自動車と三菱自動車のみとなりました。一方で、日産とフランスのルノーは、2019年6月20日に、自動運転開発会社の米ウェイモと無人運転技術を使ったサービスで提携することを発表し、日仏での合弁会社設立にも合意しています。これにより、国内はトヨタ・ソフトバンク主導のMONET陣営と、日産・ルノー・ウェイモという二大勢力が、自動運転・MaaS分野で熾烈な競争を繰り広げる構図が鮮明になってきました。
仲間づくりを進めるトヨタの「オープン化」戦略
トヨタは「CASE」の分野で、投資負担を抑えつつ普及を急ぐ戦略として、「オープン化」を加速させています。これは、技術を自社だけで囲い込むのではなく、積極的に仲間づくりを進め、共同で開発を進めていくという方針です。自動運転分野では、ライドシェアや移動店舗などに活用できる多目的モビリティ「e-Palette(イーパレット)」を、米ウーバーテクノロジーズやアマゾン・ドット・コムなどと共同で開発していることがその一例です。
また、電気自動車(EV)の基盤技術を開発する新会社を2017年にマツダやデンソーと設立しており、現在はSUBARU、ダイハツ、スズキ、日野自動車など合計9社が人材を派遣するなどして、事実上、日本の自動車メーカーの大半が参画する連合体へと成長しています。こうした一連の「オープンな協調」の動きこそが、日本の自動車産業が世界的な技術競争で生き残りを図るための重要な一手だと考えられます。各社が個別に抱える走行データやノウハウを集約し、利便性の高いMaaSサービスを迅速に開発することで、消費者にとっても大きなメリットが生まれることを期待したいものです。
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