2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う原子力発電所事故は、私たちにエネルギーのあり方を深く考えさせる大きな転機となりました。この未曾有の危機を契機に、東北地方では再生可能エネルギー(再エネ)の導入が急速に進展し、いまや地域経済を支える新たな柱となりつつあります。しかし、国の固定価格買い取り制度(FIT)の見直しや電力の出力制御の動きなど、大規模事業者にとっては逆風も吹き始めています。このような厳しい事業環境の中で、前職で培った確かな経験とノウハウを武器に、被災地から再エネの次のモデルを発信しようと奮闘するシニア世代の挑戦者たちがいるのです。彼らは「再エネは経済合理性がある」と見据え、地域を巻き込む革新的なビジネスモデルの構築を目指しています。
山形県飯豊町では、金融マーケットの最前線を走り続けた人物が、バイオマス発電を核とした循環型農業の実現に向けて新たな一歩を踏み出しています。その人とは、野村證券の副社長などを歴任した、東北おひさま発電社長の後藤博信氏(72歳)です。
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故郷にUターンし、副町長在任中の震災を機にエネルギーを中心とした社会変革の必要性を痛感し、2013年(平成25年)に起業しました。後藤氏は、「これまでのキャリアは一度脱ぎ捨て、ゼロからのスタートだ」と語っておられますが、これまでの経験に裏打ちされた事業構想力は健在でしょう。同社は現在、太陽光発電所や小水力発電所を運営していますが、「震災から8年が経過し、再エネへの関心が低下していないか」という問題意識から、次なる挑戦としてバイオマス発電事業に着手するのです。
バイオマス発電とは、家畜の排せつ物や木材といった生物由来の資源(バイオマス)を燃焼させたり、微生物に分解させたりすることで電気や熱を生み出す発電方式のことです。地域のブランド牛である米沢牛の排せつ物処理は、臭いや費用から規模拡大の足かせとなっていましたが、後藤氏は「処理に困る排せつ物を電気と熱に変えれば、畜産業の振興にもつながる」と確信しています。同社はまもなく約10億円を投じて発電施設を建設し、飯豊町も隣接地に畜産団地を整備して飼育頭数の増加を後押しする見込みです。将来的に買い取り価格が引き下げられるリスクも見据え、「最終的には売電だけでなく、自分たちで利用する自立したツールにしたい」と考えている後藤氏の視点は、まさにマーケットのプロならではの柔軟性と合理性を兼ね備えていると言えるでしょう。
一方、福島県喜多方市では、200年以上の歴史を持つ大和川酒造店の経営者から再エネ事業へと転身した、会津電力会長の佐藤彌右衛門氏(68歳)が業界のカリスマとして注目を集めています。佐藤氏は「地域資源がないと嘆く暇があったら、あるものを生かせばよい」と、各地でご当地発電所の必要性を力強く説き、2013年(平成25年)の会社設立以来、福島県内に約80カ所の太陽光発電施設を展開してきました。もともと老舗酒蔵の経営改革で手腕を発揮してきた佐藤氏は、「銀行は貸す先がなくて困っている。FIT制度を賢く使えば、ビジネス経験のあるシニア世代にはまだまだ事業化のチャンスがある」と、果敢な挑戦を奨励しています。同社は小水力発電の稼働や木質ペレットを活用したバイオマス発電など、事業の幅を着実に広げているところです。
風力発電と農業復興の革新的な融合モデル
この二人よりも一回り若いシニア世代で、国際金融の世界で活躍してきた経歴を持つのが、SUKKENERGY(サスケナジー、福島県南相馬市)社長の渡辺千春氏(52歳)です。メガバンクや米ゼネラル・エレクトリック(GE)の金融部門などでの経験を持つ渡辺氏は、GE時代に福島県の原発被災地での大型風力発電事業に携わっていました。太陽光発電が農地にパネルを設置すると農業再開が難しくなるのに対し、風力発電であれば、風評被害が収束するまでの間に土作りを進め、農業復活を支援できるという可能性に着目したのです。 構想は事業化寸前まで進みましたが、投資家が「風のリスク」を懸念して撤退してしまうという苦い経験をされました。この出来事に対し、渡辺氏は「日本の企業はリスクを取れない。自分でやるしかない」と決意し、GEを退職。2018年(平成30年)に地元経営者や農家など、被災地復興に携わる5名で起業を果たしたのです。
サスケナジー社は、風力発電の収益を活用し、南相馬市で3年前から栽培されているオーガニックコットンを買い取り、加工販売する地域循環型モデルを描いています。最大の課題であった風の変動という天候リスクに対しては、保険でまかなう仕組みを導入することで、地方銀行などの新たな金融機関の参入を促進し、事業の安定性を高めたいと考えているようです。国際金融のプロの視点と、地元の復興への熱意が融合したこのモデルは、再エネ事業の新たな可能性を示していると言えるでしょう。
東北地方は積雪の影響などで太陽光発電の普及が遅れていましたが、東北おひさま発電や会津電力は、パネルの傾斜角度を工夫するなど、創意工夫によって発電効率を高めることに成功しました。これにより、東北地方の再エネ導入容量は過去5年間で30倍以上へと急拡大しました。しかし、買い取り価格の引き下げや、東北電力が電力需要を超える場合に発電を止める出力制御を表明するなど、事業環境は厳しさを増しています。会津電力の佐藤会長が「マーケティングなしで売り上げ見通しが立った」と語るFIT頼みの事業は、今や限界を迎えつつあるでしょう。私は、再エネが真に地域を支える産業となるためには、後藤氏や渡辺氏が目指すように、売電から自家消費や地域産業との連携へと軸足を移すビジネス感覚と自立性が不可欠であると強く感じています。シニア世代の挑戦者たちが示す「東北発」の循環型再エネモデルは、地方創生のカギを握るのではないでしょうか。
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