ヨーロッパの自動車産業、特にフランス国内の動向にいま、大きな関心が寄せられています。民間調査会社マークラインズによると、2019年4月のフランスの自動車生産は、同年1月から4カ月連続で前年実績を上回るプラス成長を記録しました。この好調の主役となっているのが、フランスを代表する自動車メーカー、ルノーです。同社は、経営の主導権を巡って一時は激しく対立したパートナーである日産自動車と、欧州市場における電気自動車(EV)の「王座」を巡っても熾烈な競争を繰り広げています。
また、欧米大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)との統合交渉が明るみに出たことで、ルノーの市場シェアや技術力が世界的に注目されている状況です。マークラインズのデータでは、2019年4月のフランスにおける自動車生産台数は前年同月比3.7%増の19万5920台に達しました。欧州最大の生産国であるドイツには及びませんが、フランスは自動車生産国としての存在感を着実に高めています。国際自動車工業連合会によれば、2018年通年の生産台数は227万台と5年連続で増加しており、2013年比で約3割もの大幅な伸びを見せています。
このフランス国内の生産拡大の背景には、同国政府の産業界への強い関与、すなわち「産業介入」の傾向が色濃く影響していると見られます。伝統的に政府が主要産業の育成や雇用維持に強い意向を示すフランスにおいて、政府はルノーの筆頭株主として15%を出資しています。かつて日産がインドでの生産を計画していた小型車「マイクラ」の生産が、高コストであるフランス国内のルノー工場に移管された一件は、こうした政府への配慮が生産台数の押し上げに繋がった一例と言えるでしょう。
2018年のフランス国内における乗用車登録台数を見ると、ルノーは54万7704台でシェア25.2%を獲得しました。本拠地を同じくするライバルであるグループPSA(69万8985台、32.2%)には及びませんが、世界的な視点で見た場合の注目度や将来性という点では、ルノーに軍配が上がると私は考えています。ルノーは、自動車業界の新たなトレンドである「CASE」(コネクテッド、自動運転、電動化)の分野で、着実に競争力を強化しているためです。
日本ではあまり知られていない事実かもしれませんが、ルノーは量産型EVの市販化において、非常に早い段階から取り組んできました。三菱自動車(2009年)、日産(2010年)に次いで、ルノーは2012年に主力EV「ゾエ」を市場に投入しています。日産とはアライアンス(提携)関係にあるにもかかわらず、欧州でのEV販売においては文字通り真正面から競合し合っているのです。2018年の欧州での販売実績を見ると、「ゾエ」が3万9448台を販売したのに対し、日産の「リーフ」は4万台を超え、欧州首位の座を獲得しました。しかし、その前年の2017年は「ゾエ」が欧州トップの座に就いており、両社の競争は予断を許さない状況が続いています。
ルノーはEV領域での優位性に対し、強い自信を示しています。2019年6月12日にパリで開かれたルノーの株主総会では、ティエリー・ボロレ最高経営責任者(CEO)が「ルノーには過去と将来に向けての柱がある」と力強く強調しました。その将来の柱の一つに、このEVが据えられています。さらに5日後の6月17日には、初代デビューから7年を経て初めて全面改良された新型「ゾエ」が発表されました。新型モデルは、一回の充電で390キロメートルの走行が可能となり、9.3インチの大型タッチスクリーンを装備するなど、利便性を大幅に向上させています。この主力EVはフランス国内で生産される予定であり、好調なフランスの自動車生産をさらに後押しすることになるでしょう。
これまでの日仏連合は、生産規模や技術力、そして収益面において日産が優位であると一般的に認識されてきました。しかし、現在の日産は業績悪化に苦しんでおり、「青息吐息」という表現が適切かもしれません。収益性を比較すると、2018年12月期のルノーの売上高営業利益率は6%超と、日産(2.7%)を大きく上回っています。さらに、2019年5月下旬にはFCAとの統合交渉が明るみに出るという一幕もありました。この交渉自体は白紙に戻りましたが、株主総会でジャンドミニク・スナール会長が「初めて欧州のチャンピオンをつくれるチャンスだった」と発言したことからも、ルノー側の積極的な姿勢と、世界的な自動車メーカーの再編を目指す強い意気込みが感じられます。
SNS上では、このルノーの積極的な姿勢に対し、「日産はアライアンスパートナーなのに、ルノーの動きが速すぎて不安になる」「EVのゾエ、新型は航続距離が伸びて魅力的。日本でも売ってほしい」といった様々な意見が飛び交っています。インドなど一部の新興国を除き、世界の自動車市場の伸びが鈍化する中で、業界の軸足は「CASE」といった未来技術での競争力の深化に移っています。フランスの母国ブランドであるルノーが、この激変する市場でどのような一挙手一投足を見せるのか、目が離せない状況が続くでしょう。
コメント